2005年10月23日

白い点(Take a Bow)@

Something to Remember.jpg
Madonna / Something to Remember

運転免許の更新で試験場に来ていた。
私は、少し早目に着いて手続きを済ませた後、講習が始まるまで多少時間を余していた。

階下の売店でパンとホットコーヒーを買い、講習会場前の待合室で、それを食べた。
待合室の椅子は、建物を覆うガラス張りの壁に面していて、広々とした外の景色が見渡せた。
今朝から外は、霧のような細かい雨が振り続き、重い雨雲が天幕のように垂れ下がっていた。

私の椅子から3客ほど隔てた椅子に、50歳を少し回ったくらいの女が腰を下ろしていた。
私と女の間には、誰も座っていない。

女は、やはり講習を待っているのだろう。うつむいてファンデーションを塗っている。
私は、コーヒーを飲みながら、女の顔をチラッと覗いて、前に視線を戻した。

その時、何かが残った。私はもう一度、女の顔を覗き見た。
女がファンデーションを塗っている顔の前に、白っぽい半透明の球体が浮かんでいた。
球体は、直径1pほどの大きさで、点と呼んでもいい感じがした。

球体は、女が顔を左右上下に動かす度に、同じ方向に動いた。明かに女の顔に球体が張り付いている。
しかし、女と球体の間には、棒らしき物は見えなかった。

女は、私の視線に気付いたのかパチンと音をたてて、ファンデーションを閉じた。
私は、反射的に前に向き直った。

少しの沈黙の後に、女は私に話かけた。

「あなたにも<白い点>が見えるのね?」
女の声は落ち付いていて優しさを感じさせるものだった。

「ええ」私は女の前にある<白い点>を見つめながら、うなづいた。

「そう。凄く数は少ないけど見える人がいるのよ。でも、勘違いしないで。
特にコレが見えたからって特別な能力や才能があるって訳ではないのよ。
何の能力でも才能でもないわ。あなたも私も。ただ見えるってだけ」
女は寂しそうな笑顔見せた。

よく見ると、女は綺麗と呼んで差し支えない顔立ちをしていた。

「20歳くらいだったかしら、この点が現れたのは。そりゃあ当時は凄く悩んだわよ。
誰にも見えないんだから。相談のしようがないじゃない。
でも慣れちゃったのね。今では、ほとんど気にならない。不便な訳でもないしね。
人って何でも慣れちゃうのよ。って言うより、諦めちゃうのね。

誰にも見えないと思ってたんだけど、ごく稀に見える人がいたのね。
嬉しかったわ。救われた気がした。
私達には他の人とは違う力が宿っているんだ、と思い込んだわ。何か、とても大きな事に思えたのよ。

でも今となっては、ただの点だった。なんの力もなかった。ごく普通の人だったのね。
私も見える人も」

私は女の話に引き付けられた。いや。彼女そのものに引き付けられていたのかもしれない。

「私は、その中の一人の男と恋に落ちたわ。<白い点>が私達を結び付けたの」


posted by sand at 04:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 超短編小説B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 白い点ね・・・。人ってそれぞれ白い点とは意識していなくてもそれぞれの人にある白い点のようなものを見つけているのかもしれないです。それは大したことではないとしてもそれが人を結びつけたり、決定的に切り離すことがあるかもしれないし、ただの無関心なのかもしれません。
Posted by ITORU at 2005年10月23日 07:47
こんにちは。いつも読んで頂いて、ありがとうございます。

すいません。最初にお断りしておけば良かったんですが、長い話しでして。
最後まで読んでいただけたら幸いです。

いつものように曖昧なので、分かり難いとは思いますが。
楽しんで頂けたなら良いのですが…。
Posted by sand at 2005年10月23日 16:31
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