2005年10月23日

白い点(Take a Bow)B

Take a Bow.jpg
Madonna / Take a Bow

「それから暫くして、彼から連絡があって会う事になったのね。子供の為に今後を話し合おうって事ね。私は気持ちが切れていたから、彼に会っても腹も立たなかった。
私は特に何も望まなかったから話はすんなり終わったわ。
その頃には、私にも男がいたのよ。

でも別れ際に、彼は、こう言ったのよ。
<俺達は、見える必要の無い物まで見えたのかもしれない。抱える必要の無い物まで抱えてしまったのかもしれない>ってね。
私は、その場で声を上げて笑ったわ。だって、そんな事、最初から分かってた事じゃない。分かってて愛し合ったんじゃない。勝手よ。勝手な男だったのよ」

女は、うつむいた後に髪をかき上げた。甘い香水の香りが漂ってきた。
私は女の瞳を覗きこんだ。

女は、潤んだ瞳で私を見つめた。
「それから後に、付き合った男には、この<白い点>は見えなかった。
それは、ある面、気が楽ではあった。
でも最近、最初の亭主と過ごした若かった日々が懐かしく思い出されるの。

私達は何かを共有していたの。それが、結局は無意味な物だったとしても。
あの頃の私達は幸福だった。その事に変わりは無いわ。
私達は特別な空間に生きて、特別な夢を見ていたの。例え、それが本当に夢だったとしても、その頃の私達には揺るぎ無い現実だった」

私は<白い点>の向こう側にある彼女の瞳を見つめていると子供のような心境になっていた。心の奥から沸き上がって来る、ある気持ちを抑え切れなかった。

彼女と視線を合わせていると、<白い点>は私の視界から消えた。
多分、それは彼女の顔を離れ、私の中を泳ぎ回ってる。
彼女の<白い点>が、私の血管を貫き、肉を這い回り、臓器に身を隠し、骨を砕いて行くのが、分かった。
私は狂おしいような情熱に支配されていた。私は<白い点>の中心に吸い込まれようとしていた。

不意に、講習の開始を告げるアナウンスが館内に響き渡った。
私と女は、ほぼ同時に視線を外した。

女は、番号札を確認すると無言で立ち上がった。
小さくお辞儀すると、そのまま講習会場に消えて行った。彼女の<白い点>も一緒に。

私は、魂を吸い取られたような気持ちで、そのまま暫く、その椅子に腰を下ろしていた。

彼女は、自分では気付かぬうちに特殊な能力を身に付けているのかもしれない。
私は、漠然と、そう思った。
ただ、その能力が彼女に「幸福」をもたらす物なのか、どうかは、私には分からなかった。


窓の外に目をやると、空から無数の雨粒が降り注いでいる様子が見えた。
雨粒は、光り輝く球体に姿を変えていた。
それらは激しく地面に叩き付けられ、粉々に弾け飛んで行った。



☆終わりです


posted by sand at 16:00| Comment(5) | TrackBack(0) | 超短編小説B | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 途中までと最後までは確かに印象変わりますね。何か切なくなりました。
Posted by ITORU at 2005年10月23日 17:32
すごく面白かったです。中年女の心に沁みました。
「白い点」は、誰にでもあるのかもしれませんね。
それにしても、sandさんの描く女性は、肉感的だったり退廃的だったりするのに、どこか清潔なのが不思議です。やはり小雪ファンは違います。

免許の更新お疲れ様でした。私もこの夏行ったのですが、くだらねえ違反のせいで警察で更新できず、刑務所みたいなところに行かされました。ああいう官製の古い建物っていうのは、独特の空気がありますね。でも嫌いじゃないです。
ところで東海林のり子さんのレポートは福岡でも見るんだろうか?(ただし違反者のみ)
Posted by ショコポチ at 2005年10月23日 20:59
とてもおもしろかったです。読んでからいろいろ考えてしまいました。
白い点かあ。それが見えるカップル、見えないカップルあるだろうけど、「自分たちがなにか特別な結びつき」である、ってことを期待してしまうってのは、人間が本能的に持ってる希望と言うか欲望と言うかなんじゃないかな・・・。
相違やわたしも若い頃はそういうの、期待してましたわ・・・
Posted by at 2005年10月23日 23:20
↑あっちゃ〜。ごめんなさい。また無記名で送ってしまった。そんなことをするのはワタシです。
Posted by tallulah at 2005年10月23日 23:21
皆様、読んで頂いて、ありがとうございます。感謝であります。

ITORUさん

今回は、夫婦が抱いてる共通の価値観(幻想)みたいな物が崩壊していく現場を<白い点>って概念を通して書きたかったのですが、書き表すのは難しいですね。
書き出しは良かったような気がしますが、後半がいつものように今一つだな〜。ま、文芸作を書く訳じゃないから面白かったら良いのだけど。

ショコポチさん

>肉感的だったり退廃的だったりするのに、どこか清潔

これはマドンナ聞きながら書いたからかな。あの人、そんな2面性あるからね。
カイリーミノーグ(乳がん克服、良かった)には無い。
無いけど、カイリーの方が好きだ。

>官製の古い建物っていうのは、独特の空気がありますね

略式裁判かな?取り消し寸前って事かな。昔、1回だけ行きましたね。交通マナーお手柔らかに(^_^;)

古い建物好きですね。帝都物語とかのイメージね。あと金田一耕介とかね。良い良い。

>東海林のり子さんのレポートは福岡でも見るんだろうか

東海林さんとか出て来なかったですよ。なんか日テレの払い下げの番組やってましたよ。テレビで見たヤツだったから新鮮味に欠けた。
もっと超大作、自前で作って欲しいね〜。スピルバーグとか呼んでね。みんな喜んで違反するよ?

tallulahさん

>「自分たちがなにか特別な結びつき」

ご理解頂いて、ありがとうございます。
やっぱり当初は、幻想みたいな物があったような気がするんですよ。でも、次第に色失せて行く。
でも幻想ではあっても、確かに存在したと。
ま、そんな事なんですけど、こうやってネチネチ解説するのは気味が悪いでしょ?(^_^;)

感想頂けるのは、本当に嬉しいです!
Posted by sand at 2005年10月24日 03:30
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