2005年10月26日

パンダ葬儀屋

パンダ.jpg

その日、俺は風邪をひいて鼻水が止まらなかったのだ。
よりにもよって、そんな日に限って爺さんが死にやがった。
まったくもって迷惑な話だった。一言相談があって良さそうなものを。
他人行儀も甚だしい。
散々、物をねだって喜ばせてあげたのに…。
鼻水が止まらない最悪の日に死んじまうなんて、なんという孫不幸。

俺はティッシュの箱を小脇に抱えて鼻水をかみながら爺さんの死体を見下ろしていた。

「おい。たけし!お前、爺さん見てろ!俺はお母さんとSEXして来るから」
「どああほ!自分の親父が死んだ日にSEXかよ!あまりにも不甲斐ないじゃないか!おじいちゃんコンドーム持って成仏できねぇぞ!こらこら!お袋も嬉しそうな顔するんじゃねぇ!お前ら変態夫婦だよ!」

「うるせい!お前、まるで看病してねぇだろ!ちっとは別れの挨拶でもしてろ!あ、それからな、たけし!聞いてるのか!葬儀屋が来るから話し聞いとけ!わかったな!」

「どういう親父だ。まったく」親父とお袋は、2階に上がっちまった。
俺は、爺さんの腐れた死体と残されてしまった。まったく不甲斐ない。
鼻水まみれのヤングボーイが腐れ死体と留守番かよ。せめてソープランドのアイコちゃんが一緒ならネチネチいじったりして遊ぶんだが…。

それにしても爺さんのヤツは良く死んでる。見事な死にっぷりだ。
俺は試しに、強烈な悪臭を放つ靴下を、爺さんの鼻の上に乗せてみた。
爺さんはストイックな表情で耐えている。いつから、そんなにタフになったんだい?
俺は鼻の上に靴下乗せて余裕かましている爺さんを羨んだ。
「も〜悔しいたらありゃしない。忌々しいほどタフな人!」俺は爺さんに嫉妬してしまった。
爺さんも、ようやく人間が出来てきたようだ。一人前の男ってヤツだ。

その時、玄関先に車が止まった。葬儀屋が来たのか?俺は窓を開けて外の様子を見た。

車から降りてきたのは、印刷屋のパンダ親父だ。「何故、パンダ親父が?」
しかも両方の鼻の穴にティッシュペーパーを詰め込んでいる。
俺は、ゾワゾワと背中に悪寒が走った。まさか!
助手席からノソノソ顔を出したのは、そのまさかの男。佐藤タクミのバカだった!

佐藤タクミのバカとは、佐藤タクミと言う名の30男なのだが、この男がまったく仕事が出来ない上に、髪がフケだらけで近所でも有名な不潔人間なのだ。
こいつの半径5m以内に近づくと強烈な異臭に鼻腔を襲撃される事になる。
ウンコと納豆と塩辛をグチャグチャに混ぜ合わせたような匂いだ。
橋の上で自転車に乗って佐藤タクミのバカとすれ違った豆腐屋の親父が、この匂いにやられて豆腐ごと川に転落して、頭蓋骨骨折の重症を負ったのは有名な話だ。

俺は慌てて両方の鼻の穴にティッシュペーパーを詰め込もうとしたが「ない!ない!」鼻水をかみ過ぎてティッシュペーパーが切れてしまっているのだ。
俺は、ヒラリと祭壇の上に飛び乗り、ロウソクの炎を吹き消し、そのロウソクをパキンと二つに割り、両方の鼻の穴に詰め込んで、外に飛び出した。

パンダ親父と佐藤タクミのバカの前に、立ちはだかって怒鳴りつけた!
「何しに来たんだ!帰れ!たった今!大至急!躊躇なくだ!」

「へいへい。お坊ちゃま。旦那様に呼ばれて来たんですよ。私どもサイドビジネスで葬儀屋もやってましてね」パンダ親父は揉み手しながら言った。

「バカ野郎!どうして、こんな男まで連れて来るんだよ!それに、お前、鼻栓してるじゃねぇか!」俺は佐藤タクミのバカとパンダ親父の鼻栓を厳しく指摘してやった。

「これは風邪ひいてるんですよ。それにタクミにはキムコ付けてますから」
なるほど。佐藤タクミのバカには、強力脱臭キムコが10個くらいぶら下げてある。
俺は危うく納得しそうになったが、激しく頭を振って思いなおした。
「違うでしょ!キムコじゃなくってよ!ベースの部分に相違ありよ!お風呂が先でしょ!湯船でブクブクして、シャンプー&リンスでキューティクルもケアして、ソフラン仕上げでフカフカにしなきゃ!…」
と言いかけた所で、俺は先日の一件を思い出した。

「あ、そうそう。佐藤タクミのバカとパンダママが抱き合ってる現場見たよ」俺がパンダ親父に、そう告げるや否や、佐藤タクミのバカが「うぎゃ〜〜〜!」と叫んで俺に迫ってきた。
「違うんですって!違うんですって!」
佐藤タクミのバカは我を忘れている。

俺も慌てふためいて自宅の中にに逃げ込んだ。
「ばか!ばか!慌てちゃダメ!慌てず冷静に!死んじゃうでしょ!暴れると、おじいちゃん死んじゃうから!」

佐藤タクミのバカは爺さんが寝ている枕元で、髪を振り乱して泣き始めた。

モウモウとしたフケが舞い、爺さんの顔に白い粉が降り積もって行く。
ちょうど死化粧のように爺さんの顔が白く染まって行った。

俺は鼻の穴に差し込んだロウソクにライターで火を点した。
「いい仕事だ。佐藤タクミよ。その弔い、憶えておくぜ」

俺は、鼻から明かりを灯しながら、夜が降りてくるのを待っていた。
posted by sand at 17:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説A | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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