2006年12月15日

瓦礫の茶漬け(第4回)

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 妻は流し台の上に手を伸ばし、そこに置かれていたガラスの容器を私の前に差し出した。
「苺よ。食べる?」
私は溜息をつきながら首を横に振る。『苺だったか。驚いた』私は心の中で呟く。
 妻はテーブルから腰を上げて言う。「座って。今、お茶入れるわ」
私はテーブルに腰を下ろす。いつもの妻だ。少し落ち着こう。何もなかった。だから、何も変わらない。

 妻は急須にお湯を注ぎながら、ガラスの容器に手を伸ばし、苺を一つ摘み上げる。私は妻の背中越しにそれを眺めている。妻は苺を口に含んだ。
 ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ、ぺちゃ…
 ちゅる、ちゅる、ちゅる、ちゅる…
 びちゃ、びちゃ、びちゃ…
 じゅる、じゅる、じゅる…

 妻が苺を噛み砕く音が、やけに鮮明に響いてくる。私は、その音を聞いてると気分が悪くなってきた。何か異様に生々しい。妻は、いつもそんな音を立てて苺を食べていたっけ?苺って、そんなに噛み砕く必要があったっけ?まるで肉の塊を噛んでいるようだ。
 妻は湯のみを私の前に置いた。
「悪いけど、頭痛がするんだ。もう寝るよ」私は席を立ちかけた。妻は、その言葉には一切耳をかさず、私に顔を近づけてニッタリと微笑んだ。口の中が鮮血のように真っ赤だ。「お茶漬け作りましょうね?食べるわよね。あなた?遅く帰ったんだし…」妻はニタニタと微笑み続けた。

 その瞬間、私は気が付いた。おかしい。何かが違う。今夜は、いつもの夜とは違う。何かが変わった。
私はその場から動けなくなった。私は、どこで間違えたのだろうか?その事を考え続けた。妻はニタニタ笑いを浮かべながらお茶漬けの用意をしている。私は妻の顔を覗き見ながら、ようやく、その事に気がついた。それが、いつもと決定的に違っていたのだ。
 
 私がこの部屋に入ってから、妻は一度も瞬き(マバタキ)をしていない。その大きな瞳は、ずっと見開かれたままだったのだ。



☆つづく。本日のお茶漬けは『トンカツ茶漬け』
posted by sand at 17:03| 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月14日

瓦礫の茶漬け(第3回)

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 やはりキッチンに人の気配がする。私は扉を開けずに声をかける。
「ただいま。起きてるのか?」
返事はない。私は少し迷った後、そのまま浴室に向かう。廊下を歩いているとキッチンから低い笑い声が聞こえたような気がした。私は一瞬だけ立ち止まる。何も聞こえない。落ち着け。動揺しているぞ。私は自分に言い聞かす。

 シャワーを浴びながら、私は気持ちを落ち着けようとする。何も起こらなかった。何も憶えていない。何を怖がっている?いつもの妻だ。眠れない夜もあるだろう。いつもと変わらない妻がテーブルに座って雑誌でも読んでいるはずだ。私がキッチンに入るとアクビでもしながら「眠れない」と愚痴を言うだけだ。翌朝は忘れている。今夜、何が起こったのか。妻も、そして私も。いつもの退屈な暮らしが、また繰り返されるだけだ。

 浴室から出てパジャマに着替えると、随分、気持ちも落ち着いていた。大丈夫だ。いつもの夜だ。変わらない。何も変わっていない。

「起きてるのか?」私は声をかけながらキッチンの扉を開ける。妻はテーブルに座って雑誌に目を落としている。私は、その光景にホッとする。
「お帰り。眠れないのよ」妻は予想通り言葉を告げた後、私に向かってニッコリと微笑んだ。私は、その顔を見て息が止まるほど驚いた。
 唇が、真っ赤だ。
妻はパジャマを着て、明らかにメークを落としていた。髪は薄っすらと濡れている。間違いなく風呂上りの状態だった。
 だが、その唇は真っ赤なルージュをひいたような色をしていた。まるで血の色だ。たった今、誰かの血を、すすっていたような色をしていた。


☆つづく。本日のお茶漬けは『海幸お茶漬け詰合せ』でした。
posted by sand at 16:36| 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月13日

瓦礫の茶漬け(第2回)

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 私は玄関に入ると姿見でワイシャツの汚れをチェックする。何度も何度も角度を変えてチェックし続ける。大丈夫。今度も上手くやれる。何度もあった事だ。そして、その度に忘れてしまう。裏切りも悪意も偽証も何もかも忘れる。もちろん寝た女も。私は慎重に女を選んだ。そこに愛情はなく、ただ肉体のみが存在する女を選んで抱いた。

 玄関から廊下へ続く扉を開いた。「ん!」キッチンから明かりが漏れている。妻は起きているのか?私は素早く腕時計に目をやる。「午前2時40分」。
おかしい。妻は遅くとも午前12時には寝てしまう。12時を過ぎると目を開けていられなくなる。若い頃からそうだった。猫みたいにベッドに潜り込んで寝息を上げている。陽気で屈託が無く、単純明快で朗らか。良い妻だ。最高の妻だ。
 ただ、私はそんな妻を、たまらなく思う時があった。その単純さが、たまらない。その明快さが、たまらない。その優しさが、たまらない。私は分かっている。自分が間違っている事に。それでも、私は過ちの中にある、背徳の中にある蜜のごとき滴りを求めた。私の心の奥底に潜む泡みたな物がそうさせる。パックリと開いたアケビの実のようにドロドロとした分泌物がそうさせる。
 私は間違っている。だが、私は慎重だ。慎重にそれを処理し続けてきた。



☆つづく。文章よりもお茶漬け画像を楽しみましょう。
posted by sand at 17:04| 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月12日

瓦礫の茶漬け(第1回)

ちゃちゃ.jpg

 私は玄関ドアの前で呼吸を整える。背広の襟元を正し、ネクタイを締め直す。大丈夫。抜かり無い。
 私はドアのロックを外し、ゆっくりとノブを回す。ドアの隙間から明かりが漏れ出す。私の家だ。中には妻と子供達が寝ている。いつもと変わらない。いつもと同じ穏やかさ。いつもと同じ一日の終わり。

 どうしても、そこに違いを見つけようとするのならば、私が今夜ある女と寝て来た事ぐらいだ。そして、その女が妻の親友だった事くらいなものだ。


☆つづく
posted by sand at 19:03| 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月09日

Drifting / Little Wing(いらない贈り物)

Cry of Love.jpgAxis Bold As Love.jpg
Jimi Hendrix / The Cry of Love - Axis Bold As Love

 ゆっくりと旋回し、小刻みに体重移動を繰り返す。
急上昇した後、上空で静止し、一気に急降下する。右に身体がぶれる。スピードがのると身体の揺れは、さらに激しさを増す。「まずいな」僕は顔をしかめる。

 ガルシアの店が近づいてきた。僕はスピードを緩め、高度を下げる。屋上の離着陸スペースに舞い降りる。
「やあ。儲かってるかい?」僕は扉を押して店に入る。
「ご覧の通りさ。キャッチボールでも始めようか?」ガルシアは眠たそうに店内を見回す。客の姿は一人見えない。
「おう。ジミ。新しい翼か?」ガルシアの問いかけに、僕はうなずく。僕らの翼は3年おきに生え変わる。
「右にぶれるんだ。見てくれるかい?」僕はガルシアに背中を向ける。
ガルシアは僕の背中の翼に、視線を注ぐ。「バランスが悪い。少し整えよう。痛いぞ」僕は静かにうなずく。ガルシアはハサミを取り出し、僕の右の羽根を数カ所切り落とす。「ウッ」僕は痛みに顔をしかめる。幾枚かの羽根がフロアに舞い落ちる。

 僕はカウンターのスツールに腰を下ろしている。ガルシアはポイップ・ビールの缶を投げてよこす。「飲めよ。勘定は忘れた頃で良い」
「悪いね。いつも」僕はガルシアに礼言う。良い男だ。
「ジミ。仕事は、まだか?」僕は力なく、うなずく。もう半年以上、職を探し続けている。でも僕を雇ってくれる職場はどこにも無かった。
 僕はビールを流し込みながら、窓の外を見上げる。空には忙しく飛び回る労働者達の姿が見えた。僕にも新しい翼がある。行きたい場所には、どこへだって飛んで行ける。だが、僕はただ行くだけだ。それでは何一つ変わらない。何一つ生み出せない。

「ジャニスは元気かい?」ガルシアは自分のお腹を摩る。「ああ。元気だよ。お腹の子も順調だ。順調じゃないのは僕だけだ」
ジャニスのお腹には、僕らの子供が入っていた。出産まで、もう日がない。でも僕らには出産費用の当てもなかった。

 ジャニスの妊娠を知った僕らは、周囲の反対を押し切って二人で暮らし始めた。僕にはお金も職もなかったが、愛さえあれば、それを乗り越えられると信じた。だが、どんなに血眼になって職を探しても、僕のような男を雇う職場は見つからなかった。ジャニスが持ち出した貯金もすぐに底をついてしまった。
 夜、ベッドの上でジャニスは、僕の胸に身体を寄せて聞いた。
「ねぇ。ジミ、愛しているわ。でも私達は、どうなるの?どうなってしまうの?」
僕はただ黙って首を振るだけだった。
「こんな時『AXISの実』さえあればね。それさえあれば全て上手く行くのに」
ジャニスはいつも、そんな事を口にした。『AXISの実』とは僕らがまだ幼い頃、湖のほとりに生えていたAXISの木に実った果実だ。僕らが、それを口にすると不思議と幸運が舞い込んだ。僕ら二人は、それを幸運の実と呼んで、何か辛い事や願い事がある度に、その場所を訪れた。だが、ある時期を境に、その木は枯れて朽ち果ててしまった。もう二度とその実を口には出来なくなった。何かが変わってしまったのだ。

「ああ。そうだ。『AXISの実』を憶えているかい? 湖の近くに実っていた果実だよ」ガルシアはカウンターの奥から不意にそんな言葉をかけた。僕はビクリとして椅子から立ち上がった。「『AXISの実』がどうした? どうしたんだ?」
「なんだよ。怖い顔するなよ。何日か前、南から来た旅行客が置いていったんだ。こっちじゃ珍しいだろうとね。それでパイを焼いたんだ。懐かしい味だぜ。ジャニスに食わせてやれよ」ガルシアは冷蔵庫からラップに包まれたパイの皿を取り出した。
 僕はパイを受け取って震えた。パイには『AXISの実』が散りばめられている。もう大丈夫だ。僕らはもう大丈夫なんだ。僕はガルシアの手を握り何度も何度も、お礼を言った。

 僕はパイの皿を抱いて大空に舞い上がった。ジャニスの元に急いだ。大丈夫。二人は大丈夫。どこまでも飛べる。二人でどこまでも飛んで行ける。僕は喜びに震えた。胸を高鳴らせた。僕は翼を広げ、空を滑空する。スピードと高度を上げる。僕は音の速さで彼女の元に飛んで行く。ジャニスの笑顔が見れる。僕は彼女を愛している。何よりも大切に思っている。



 部屋に戻ると、そこにはジャニスの姿はなかった。
それどころか彼女の荷物は、一つ残らず運び出されていた。僕は呆然と立ち尽くす。
テーブルの上に彼女からの書置きがあった。

『ごめんなさい。私、ママに相談して家に戻る事にしたわ。
あなたは良い人よ。優しい人よ。あなたは私に沢山の愛を贈ってくれた。抱え切れないほどの愛を。
でも、私にはもう持てないのよ。それを持てなくなってしまったの。私はあなたの愛より、私とお腹の中の子供を選ぶ事に決めたの。ごめんなさい。全部、私の罪で良いわ。
だから、私を行かせて。どうか行かせて欲しいの』

 ジャニスからの書置きには、そう記されていた。
僕は椅子に腰を下ろし、テーブルの上にパイの皿を放り投げる。もう、これは必要ない。

 僕はテーブルの上に顔を埋める。僕には翼がある。僕は、どこへでも飛んで行ける。僕は、いつでも彼女の元に飛んで行ける。僕は、彼女がどこにいようとも、彼女にありったけの愛を運ぶ事が出来る。
 でも、彼女は、それを必要とはしていない。もう、それを必要とはしていないんだ。

 僕の翼から小さな羽根が、音もなく舞い落ちる。




超短編小説会さんの同タイトル投稿用です。12月のお題は『いらない贈り物』でした。
posted by sand at 16:32| Comment(2) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月28日

ニヤリ

Marc Benno.jpg
Marc Benno / Minnows

☆今日は超短編小説会さんの同タイトルに投稿用です。以前、書いたのを圧縮したものです。

 彼女は厳冬の湖畔に立っていた。
水際にしゃがみ込み、凍てついた湖水に手を伸ばす。
 湖中から青白い指が浮かび上がり、彼女が差し出した指に触れた。やがて湖面に蒼くヌラヌラと光る湖底獣の顔が現れた。湖底獣は、サーカスのピエロのような顔をしていた。彼の顔は泣いているようにも、笑っているようにも見えた。
「寂しいんです。どうか一緒に湖底で暮らして頂けませんか?」湖底獣は、水際の彼女に声をかけた。

 彼女は、疲れ切った顔を上げて答えた。
「いいわよ。私は悪い男に騙されて犯罪に手を染めてしまった。ずっと警察から逃げ回っていたわ。でも、もうお金も尽きたし逃げる気力も無くなってしまった。どうぞ連れて行って下さいな」湖底獣は、鬱蒼とした顔をパッと輝かせた「本当ですか」
 彼女は静かにうなずき、言葉を繋いだ。
「二つだけ約束してくれるなら。一つは、あなたの持ち物は、全部、私の物に出来るという事。もう一つ。私には年老いた父がいるの。長く入院している。1年に1度だけ、父に会う為に地上に返して欲しいのよ。そうすれば貴方を決して一人にしないわ」湖底獣は喜んで、うなずいた。

 湖底獣の身体に触れていると、彼女の身体には膜が出来たみたいに、湖水の中でも楽に息が出来た。冷たさも感じなかった。水の抵抗さえなかった。湖底獣と彼女は、水の隙間に潜り込む様に、湖底へと落ちていった。
 湖底には洞窟があり、中に入ると広々とした空間があった。不思議な事に、そこには空気が存在し、彼女は湖底獣の身体から離れても息をする事が出来た。洞窟の岩盤には、光を発する岩があり、ほのかな明かりが灯されていた。

 湖底の生活は、慈しみ溢れたものだった。
湖底獣は醜い姿と相反するように、純粋無垢な心を持っていた。まるで産まれたばかりの赤ん坊のように彼の心には一点の曇りさえなかった。世知辛い世の中で揉まれ続けて来た彼女には、湖底獣の心がオアシスに思えた。ごく自然に彼女は、湖底獣を愛するようになっていた。
 湖底獣は彼女の為に、琴のような楽器を奏でた。その音は、今まで一度も耳にした事が無いような美しい音だった。深い深い哀しみと厳しく冷たい湖底の鼓動を封じ込めた、絹糸のように繊細な音だった。彼女は、その調べを聴いて心からの癒しを感じた。

 湖底獣は、彼の母から譲り受けた宝石を彼女に見せた。それは、薄暗い洞窟の中でも眩しいほどの輝きを発する、考えられないほど大きくて青いサファイアだった。「湖底の雫」。そのサファイアは、そう呼ばれていた。彼女と湖底獣は、頬を寄せ合って、その輝きに見入っていた。彼女は無償の幸せを感じていた。どこの誰とも比べる必要のない幸福だった。
 湖底では、静かに静かに時が流れていた。昨日であれ今日であれ、何の区分けも必要なかった。ただただ、穏やかで緩やかな一時だけが、訪れては去り、また訪れては去って行った。彼女は時の流れを忘れていた。だが湖底獣の心は純粋過ぎて、それを隠す事など出来なかった。湖底獣は彼女にその事を告げた。
「あれから1年が経ちます。あなたが地上のお父様に会われる時が来ました」
湖底獣の心は美し過ぎて、彼女を疑う事など出来なかったのだ。

 彼女は、湖底獣に手を振って湖畔を取り囲む森の中に消えていった。湖底獣は、湖面に顔だけを浮かべて彼女の姿を見送った。彼女の無事を祈り、彼女を待つ事が出来る自分に幸福を感じていた。

 それから湖底獣は、毎日毎日、何度も何度も湖底を離れ湖面から顔を出して彼女の帰りを待った。雪の日が続き、湖面に薄っすらとした氷の膜が覆った。ある時には激しい風雪が襲った。湖畔の周囲に広がる森林に鮮やかな雪化粧が施された。
 やがて太陽は高い高い場所から、燦燦と湖畔を照らし、雪解けの時が訪れた。
彼女は戻らなかった。
 湖底獣には彼女を疑う事が出来なかった。人の心が変わってしまう事など、彼には想像すら出来なかった。湖底獣は彼女を愛していた。その想いは日増しに強くなって行くようだった。あまりに強い想いから、湖底獣の身体は引き裂かれてしまいそうだった。
 湖底獣は、彼女の身を案じた。彼女の苦痛に身を震わせた。そして陸に上がる事すら出来ない自身を攻め続けた。それでも湖底獣は、彼女を待つ事が出来る、その尊さを痛感していた。愛する人がいて、その人を待てる。それは何よりも湖底獣を強くした。その想いが湖底獣を奮い立たせた。
 季節が夏に差しかかる頃、湖底獣は棲家の洞窟から、青いサファイア『湖底の雫』が消え失せている事に気がついた。多分、彼女が持ち出したのだろう。湖底獣は、その事に何の疑いも持てなかった。それが何を意味するのかさえ、彼には推し量る事が出来なかったのだ。

 夏が終わり、森の木々が色づく頃になっても、彼女は戻らなかった。
湖底獣は、いつものように湖畔に顔を浮かべて彼女を待っていた。彼女がいつか現れる。その事を信じ続けることには、今まで彼が犯した全ての罪(彼自身が罪だと感じている事柄)を帳消しにしてしまうような、強い強い力が備わっていると感じるようになっていた。
彼は彼女を信じ続ける事で、彼自身から自由になれるような気がしていた。彼女の存在が、彼を解き放つ事が出来る。そんな気持ちを感じていた。

 季節は一回りし、厳しい冬が再び訪れようとしていた。
その日の朝、森の枝をかき分けて、彼女は遂に湖畔に戻ってきた。
 細かい霧のような雨が、彼女の厚手のレインコートを濡らした。彼女は、毛布の包まれた何かを大事そうに抱えていた。
「ごめんなさい。待たせたわね」彼女は水際まで降りてきて、湖底獣に声をかけた。湖底獣の発した返事は、感激のあまり言葉にならなかった。
 彼女は湖底獣に向かって抱えていた毛布に包まれた物を差し出しだ。
青い顔をした赤ん坊だった。「貴方の子供よ。一人で産んだの。大変だったんだから」彼女は笑って言った。
 湖底獣は、我が子を抱きかかえて喜びに震えた。
「良かったわね。これで一人じゃなくなったわね」彼女は、そう言うと水際から少しづつ後退りして行った。
 彼女は、水際から離れた場所に立って言った。
「もう貴方は孤独じゃないのよ。だから私は行くわ。あの宝石は、信じられないくらい高値で売れた。そのお金で過去を清算したの。お金さえあれば、それ程の罪じゃなければ清算できるのよ。私は、お金で解き放たれたって訳ね。
 これから楽しく暮らさせてもらうわ。使いきれないほど、お金が残っているの。貴方はウソを付かない人だった。私も自分の欲望にウソをつかないわ。
良い?これはハッピーエンドよ。少なくとも地上では、そう呼ぶわ。じゃあ。」
 そう言い残して、彼女は森の中に足早に消えてしまった。

 湖底獣は、自身の子供を抱きかかえて湖面に佇んでいる。
サーカスのピエロのような顔を、さらに歪めて。
 彼は泣いているのかもしれない。だが、その顔はニヤリとした微笑みにしか見えなかった。
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2006年11月23日

裏窓の女(前篇)

Within the Realm of a Dying Sun.jpg
Dead Can Dance / Within the Realm of a Dying Sun

 裏窓の外から女のすすり泣く声が聞こえた。
私は古いトイレで用を足していた。寒い夜の真夜中過ぎの事だった。

 小便器の上、ちょうど私の顔のある位置に、裏庭に接した木の窓があった。窓のスリガラスに浮かんでいるのは暗闇だけだった。女の泣き声は切れ目なく聞こえ続けた。私は何度も躊躇しながらも好奇心に負けた。窓ガラスに顔を近づけ、外の様子をうかがおうと窓を開け放った。
 『裏窓の女』の顔は、窓ガラスすれすれの位置にあった。窓に顔を寄せた私と女との距離は5cmにも満たなかった。蒼白の顔面に爛々と輝く異様に見開かれた眼。赤く充血した瞳には、ほとばしるような妖気を湛えていた。髪は濡れたように湿り気を帯び、固く結ばれた唇は芋虫のように蠢いていた。この世のものではない。死の世界から来た女だ。
Filigree & Shadow.jpg 私は弾かれるように後ろに飛び退いていた。声にならない呻きを上げながら。半開きのトイレの扉を背中で押し開き、廊下に叩き付けられるように転がった。私は腰が抜けて動けなくなっていた。身体に力が入らない。私は鯉のようにパクパクと口を開閉し、ヨダレを垂れ流していた。眼は飛び出すほどに見開かれ、心臓は張り裂けるほど鼓動を打ち続けた。
 『裏窓の女』は、じっとこちらを覗っていた。声を上げる事も身動きする事もなかった。ただ、女の頬には幾筋もの涙の線が引かれていた。目の縁は涙でじっとりと濡れて見えた。私は幾分落ち着くを取り戻していた。女の顔があまりにも哀れだったからだ。冷静に眺めれば、女は力のない唯の孤独な女だった。誰からも愛されることのない。つまらない、取るに足らない女だった。私は女を心底軽蔑して眺めていた。そんな私の冷たい視線に気が付いたのか、女の顔は次第に身を隠すように暗闇の中に消えて行った。

 その裏窓がある家は、祖母の持ち家だった。私は都会の企業に一旦は就職したのだが、過労で体調を壊してしまい、遂には離職し、地方にある祖母の家に静養も兼ねて身を寄せていた。一人暮しの祖母の家は気兼ねがなく、私は社会復帰を日一日と延ばしていた。近くの病院に通院する他は、縁側に寝転んで書物を眺める毎日であった。
『裏窓の女』は、その夜から先も裏庭ですすり泣き続けていた。ただ、私は二度と窓を開ける事はなかった。私は女のすすり泣きを嘲りの気持ちで聞いていた。私はその醜い女を心行くまで罵倒し、傷つけてやりたかった。その弱い女に二度と立ち上げれぬほどの失望を与えたかった。私は暇で悪意に飢えていた。人を傷つける事が私の唯一の楽しみでもあった。
 私はある時、『裏窓の女』に聞こえるように声をかけてみた。
「女。寂しいのか?」窓の外で何かが動く気配がした。
「実はな。俺も寂しいのだ」私は嘘を付いた。私は寂しさなど、これっぽちも感じていなかった。むしろ楽しくて仕方がなかった。
「なあ。寂しいのなら、俺のそばにいても良いぞ。俺はお前が哀れでならない。そして同じように俺も哀れな男なのだ。どうだ? 俺のそばにいてくれるか? 俺を孤独から救ってくれるか? どうだ、女? 俺を愛してくれるか?」私はそう言い終わった後、ニヤリと微笑んだ。

 その日から『裏窓の女』の泣き声は止んでしまった。そして間もなく『裏窓の女』は私の実生活の中に姿を現した。女は意外な場所に潜み、私を見守るように熱い視線を投げかけた。思ってもいない場所に女は姿を現した。そして無言で私を見守り続けた。女の欲しいものが私には分かっていた。くだらない物だ。実に役に立たない物だった。
 ある時、女は地下鉄のガラス窓に姿を現した。異様に大きな眼を見開いて、暗闇を背にした窓ガラスにヒッソリと貼り付いていた。
 ある時、女は医師が手にした聴診器の中に潜んで見えた。女は視線を逸らすように私の裸の胸と一緒になった。
 ある時、女は台所のテーブルの上に散らばった水滴の中に見えた。ユラユラと揺れる視線を投げかけた後、祖母の手にした台拭きに拭き消された。
 ある時、女は浴室の湯船の表面に浮かんで見えた。私はペニスを手でしごき、勃起させてから女の中に身体を沈めた。
 「女よ。俺は寂しくはない。お前が見つめてくれるからだ。女よ。俺を一人にしないでくれ。俺にはお前が必要なのだ。なあ、女。俺はお前を愛してしまいそうだ」私は笑いをかみ殺して、裏窓の向こうに声を投げかけた。そろそろ良いだろう。この醜くて役立たずの女を傷つけてやろう。せいぜい、つまらない涙を見せるが良かろう。


★文中画像This Mortal Coil / Filigree & Shadow

☆出来が悪い。でも折角書きましたので…。後編頑張りま〜す。
posted by sand at 17:44| Comment(2) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月19日

図書館で会った文字(Daydream Believer)後篇

Daydream Believer.jpg 
The Monkees / Daydream Believer: The Platinum Collection

『赤坂』と名乗る女性の声を一度だけ聞いた事があった。
その図書館には、少し個性的な女性の司書が勤めていた。意地悪とは、ちょっと違う意味で頑な面を持っていた。職務に忠実過ぎて、周囲の空気が読めないタイプに思われた。
彼女は、提出された図書カードの名前を、毎回、大きな声に出して読み上げた。誰もが露骨に顔をひそめても、彼女にはそれが目に映っていなかった。
 彼女は厳格にマニュアルに従っているだけなのだろう。少しの妥協も許さなかった。

 「赤坂ノブエさん、ですね?」
司書の女性の声は、一際大きく館内に響き渡った気がした。
「はい」か細い女性の声が聞こえてきた。
私は、あの文字の主だと直感した。私は真剣にあの文字を見つめてきたのだ。間違うはずが無い。

 だが私の心は奇妙なほど醒め切っている事に自分自身で驚かされた。
私は、そこに立っている女性を必要とはしていない。私が必要なのは、この本に記された文字だけなのだ。
私は書物から顔を上げなかった。その女が誰なのか?どんな顔をしているのか?それらは、私には無関係な事だった。ずっと遠い世界の出来事のように思われた。


 夢を見た。真昼に見る夢だ。
そこは見渡す限りの草原だ。風が強い。波を打つように草がなびいて行く。風に身体を揺さぶられるように柔らかい昇降を繰り返す。

 青い服を着た女性が目の前に立っている。青い文字を描く『赤坂』と名乗る女性だ。
彼女は白い帽子を目深に被っている。だが、彼女の顔は空洞だ。
私は、そのカラッポの顔を気に留めない。顔など必要ない。声など必要ない。私の声が聞こえる必要など無い。私の身体が目に映る必要など無い。

 私の目には彼女の右手しか見えていない。彼女の声は、紙に描かれた文字に変わる。
強い風は彼女の手元から、紙片を奪い去り、私の手元に放り投げる。

 青い言葉が記されている。私は、その紙片を抱きしめる。
私は人間などではない。それよりずっと劣る獣に過ぎない。人を愛する事など出来る訳が無い。
 私は青い文字だけを愛しよう。それだけで良い。

 その頃の私が陥っていた、青い文字との奇妙な恋愛は、不思議な出来事から終焉へと向かう事になる。

 ある日、その青い文字が急速に色褪せている事に気がついたからだ。私は焦った。
書庫から何冊もの書物を引き抜いて、その文字の記された箇所を次々に開いて行った。
「消えて行く! どの文字も消えて行く!」
何故だ?私があまりにも撫で回し過ぎたからなのか?それとも、そんな種類のインクだったのか?
 その事実は、私を心底痛めつけた。
私とこの世界を繋いでいたのは、その文字だけだったからだ。その文字が無ければ、生きて行く事が出来ない。
 私は打ちひしがれた。私が感じ取っていた、奇妙な奇妙な愛の形は、いとも簡単に崩れ去ろうとしていた。私は、その文字を愛したかった。それを愛する時だけ、様々な不安を振り解く事が出来るような気がしていた。
 愛したい。愛したい。私は狂おしいような恋慕に押し潰されていた
だが文字は、日に日に薄くなって行く。私はジレンマに苛まれ、不安定な精神状態に陥っていた。

 私が苦悩の中から導き出した結論は、その文字を描いた女性と会いたい。会わなければならない。と言う至極真っ当な事実だった。
その女性に会っても、彼女が私を受け入れ、また、私が彼女自身を文字と同じように愛せるかの確証は無かった。ただ、今の状態に終止符を打つ必要性を感じていた。
 それは今から考えると、私の中で起こった、一つの変化だったのかもしれない。

 それからの私は今までに増して図書館に通い詰めた。
来る日も来る日も、その人の名前を司書が呼び上げる瞬間を待ち続けた。まったく予期せぬ事に、その行為は私の心に、ある変化をもたらした。
 『人』を待つ事が楽しかったのだ。
私には待つ人がいる。それが一方的なものであったとしても、純粋な愛情の形に変わりなかった。私は、その人を傷つけるつもりも、奪うつもりもなかった。
 ただ待ちたかった。許されるものならば…。

 やがて、その日がやってきた。
そろそろ本格的な冬を迎える前に、ひょっこり現れた晴天の日だった。
眩しい太陽が、枯葉の舞う並木通りに穏やかな光を降り注いでいた。

「赤坂ノブエさん、ですね?」司書の声が響いた。
「はい」あの時の女性の声だ。

 私はゆっくりと席を立ち、その声のする方向に視線を合わせた。
声の主は私の視線に気が付いたようだ。ニッコリと私に微笑みかけ、小さく御辞儀した。
その女性は、定食屋の老婦人だった。

 私は、ぎこちない御辞儀を返し、慌てて席についた。そして心の動揺が収まるのを待った。
やがて、私の心は、かってなかった程の落ち着きを取り戻した。何かが終わり、何かが始まった。そんな予感を感じていた。
 私の心には、清らかで気持ちの良い風が吹き抜けていた。

 私は生まれ変わったような気持ちで、図書館のロビーを横切って行く老婦人の姿を目で追っていた。
「人とは、こんなにも美しい生き物だったのか…」私は老婦人を眺めながら改めて驚かされた。
彼女はまるで雲の上を歩いているように見えた。まるで白昼夢のようだった。

 今になって思う事は、その時の私は、もう少しで、それに気が付こうとしていたのかもしれない。
もう少しで、それに触れようとしていたのかもしれない。
 人を愛する事が、その人を何よりも強くする事に。



★はい。長くて盛り上がりのない地味なのが終わりました。
自分では、妙に(自己)満足しています。地味な性格なので。最後まで読む人は、何人かしかいないと思うけど…。
読んでいただけましたら、ありがとうございます。
次ぎは昭和40年代に戻るヤツ考えてます。その前に音楽のやろうかな?そうそう演歌ポエムと言う新たな分野も切り開きたい(←バカ)ではまた。
posted by sand at 17:16| Comment(4) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月18日

図書館で会った文字(Daydream Believer)前篇

Lonesome Picker Rides Again.jpg
John Stewart / Lonesome Picker Rides Again

 その頃、私が通っていた図書館は海岸へと続く坂の途中にあった。

 80年代の中頃。私は海岸線に面して建っている小さな図書館に通っていた。そこは、区の市民センターに併設された図書館だった。
 授業が早く終わった日やバイトが休みの日には、決まって、そこを訪れた。住んでいた下宿から小高い丘を越えると湾が一望に見渡せる坂道に出た。自転車に乗って、その坂道を滑降する途中、ガラス張りの清潔な建物が見えた。
 私は、その図書館の有りようが気に入っていた。自転車置き場に駐輪した後、しばらく、そこに立って海を見渡した。風がうねる音が耳に飛び込んできて、磯の香りが鼻を刺激した。

 ロビーを抜けて、図書館に入ると、学生よりも老人や子供連れの主婦の姿が目立った。図書館と呼ぶには、あまりにも小さ過ぎて、近くに住む市民達の憩いの場と言った方が適当かもしれない。
それでも海外文学の蔵書が、かなり揃えられていた。

 その頃の私は、アメリカ文学を読み漁っている時期だった。

マーク・トウェイン、ジョン・アーヴィング、リチャード・ブローティガン、ジョン・アップダイク、トルーマン・カポーティ、レイ・ブラッドベリ、アーウィン・ショー、J・D・サリンジャー、レイモンド・チャンドラー、スコット・フィッツジェラルド、ウィリアム・フォークナー、ジョン・スタインベック、そして、アーネスト・ヘミングウェイなどなど…。

 図書館が開くのは、午前9時からだった。私は、それより少し前に下宿を出て、ゆっくりと自転車を漕いだ。息を切らして坂を登り、丘の上から海が広がる瞬間は、いつでも鮮やかな感銘を与えてくれた。図書館に着くと、道路脇の駐輪場から海を眺めるのが好きだった。その駐輪場からは港の景色がよく見えた。私は金網に寄りかかり、タバコを吸った。
 どんなに美しい海を眺めても、私の頭には過去に体験した忌まわしい思い出が去来した。私は、心底そんなウジウジした自分自身を嫌っていた。憎んでもいた。

 私は開館の時刻に合わせて図書館の中に入った。私の他には数名の老人がいるだけだった。
私は老人と少しも変わらなかった。友人は変わり者と私を揶揄したが、実の所、私は老人になってしまいたかった。その頃、まだ10代の私は、早く歳を取って皺だらけの老人になる事を夢にみていた。
 私は若者でいる事が苦痛でならなかった。同じ10代の友人と一緒にいると息が詰まる思いがした。
当時の10代の若者が夢中になる事に、私は一切興味を持てなかった。私の望みは、静かに朽ち果ててしまう事だった。出来るだけ、速やかに…。

 まだ誰も座っていない、小さな窓際の椅子に腰をおろすのが通例になっていた。書庫から一冊の本を手に取っていた。読みかけ本だ。それから背表紙の内側のページを開く。そこには、その本を読破した者の走り書きが記されていた。何年の何月何日に読破しました。横に名前。そんな形のサインが多かった。
 そこに、こんなサインが記されていた。

 82年5月20日読了 赤坂

 その文字は、青インクで記されていた。恐らく万年筆で書かれていると思われた。伸びやかでありながら繊細さを併せ持った美しい文字だった。直線の気品、曲線の柔らかさ、ハネの力強さ。そして文字全体を包む控え目な奥ゆかしさ。その全てが完璧な調和を感じさせた。

 その文字は、私を訳もなく引きつけた。どうしてその文字なのかは自分にも分からなかった。
ただ、そこに記された文字は、私をどこまでも、どこまでも感傷的にした。理不尽なほどの心の震えが、私を襲った。焦げるような胸の痛みを感じながら、その文字を指でなぞった。
 私はまるで恋人の髪に触れる様に、その文字を撫で回した。

 同じ文字は、いく冊かの書物の裏表紙にも見受けられた。そのどれもが魅力的な本に思えた。私は、青い文字に導かれるように未知の本との出会いを果たした。

 お昼を回ると、私は読んでいた本を借りて、図書館を離れた。
図書館から海へと繋がる坂道を数十メートル進むと、小さな古ぼけた食堂があった。
カウンターと4人がけのテーブルが四つ。脂で黄ばんだ週刊誌。ブランド名入りの薄汚れたグラス。お多福の面の掛け軸。ご当地物の地名入りのミニ提灯。カウンターの上には耳の欠けた招き猫の置き物。
 老夫婦が営む昔ながらの食堂は、お昼時には年老いた馴染みの客が訪れているようだった。

 私は図書館で昼食を取る時は決まって、その食堂を訪れた。小柄で口数の少ない老婦人がメニューを聞きに来た。皺だらけの顔に感じの良い微笑みをいつも浮かべていた。当時の私は外食をする事が、ほとんど無かったが、その食堂だけには気兼ねなく通う事が出来た。

 私は、いつも瓶入りサイダーとカレーを頼んだ。カレーはミンチ肉入りのサラサラのカレーだった。祖母が作ってくれたカレーの味を思い出した。
私はモソモソと無言でカレーを頬張り、サイダーを飲み干した。

 食堂を出ると晴天であれば、近くの海浜公園まで足を伸ばした。
公園の中にある庭園を歩き回り、人気の無い場所に有るベンチの上で本を開いた。

 私は、それからもずっと巻末の青い文字を見つめ続けた。
時々、こらえ切れなくなって、泣き出してしまう事があった。その青い文字が、私に哀れみをもたらしたのか、それとも、私が青い文字に哀れみを感じていたのかは、今となっても分かり難い事だった。



★地味〜な話しを書きたいので、書き直し。地味〜に沈み込ん行くような物になると良いけど、実力が伴わない。
では、また。
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2006年11月16日

図書館で会った文字(I'm Yore Toy)

Farther Along.jpg
The Flying Burrito Brothers / Farther Along: Best Of The Flying Burrito Brothers

 その頃、私が通っていた図書館は海岸へと続く坂の途中にあった。

 80年代の中頃。私は海岸線に面して建っている小さな図書館に通っていた。そこは、区の市民センターに併設された図書館だった。
 授業が早く終わった日やバイトが休みの日には、決まって、そこを訪れた。住んでいた下宿から小高い丘を越えると湾が一望に見渡せる坂道に出た。自転車に乗って、その坂道を滑るように降りる途中、ガラス張りの清潔な建物が見えた。
 私は、その図書館の有りようが気に入っていた。自転車置き場に駐輪した後、しばらく、そこに立って海を見渡した。風がうねる音が耳に飛び込んできて、磯の香りが鼻を刺激した。

 ロビーを抜けて、図書館に入ると、学生よりも老人や子供連れの主婦の姿が目立った。図書館と呼ぶには、あまりにも小さ過ぎて、近くに住む市民達の憩いの場と言った方が適当かもしれない。
それでも海外文学の蔵書が、かなり揃えられていた。

 その頃の私は、アメリカ文学を読み漁っている時期だった。

マーク・トウェイン、ジョン・アーヴィング、リチャード・ブローティガン、ジョン・アップダイク、トルーマン・カポーティ、レイ・ブラッドベリ、アーウィン・ショー、J・D・サリンジャー、レイモンド・チャンドラー、スコット・フィッツジェラルド、ウィリアム・フォークナー、ジョン・スタインベック、そして、アーネスト・ヘミングウェイなどなど…。


★不評だった『甘酸っぱい』シリーズ第2弾(書く人は好きみたい)。今回のテーマは『図書館』
オチまで考えたけど、あまり面白くないと思います…。ボチボチ書きますので、お時間のある方だけ。
posted by sand at 18:05 | TrackBack(2) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年11月02日

10mの想い(後篇)

52nd Street.jpg
Billy Joel / 52nd Street

 ミヨシさんと歩く事が無くなった学校生活は、ひどく味気ないものになった。でもボクは元々そうだった。元々何も無い男だったんだ。ボクは教室の中を彼女の視線から身を隠すようにコソコソと逃げ回った。ボクは怖かった。自分を傷つける、あらゆる物が。もちろん、それがミヨシさんであっても。

 季節は秋から冬へ色合いを変えて行った。女子テニス部の県大会も終わり、ボクらラクビー部の県大会も終わりを迎えた。全国大会を目指していたボクらは準決勝で敗退してしまった。ラクビーはボクの高校生活の全てだった。ボクはそれさえも中途半端に失ってしまった。ボクには何も残らなかった。
好きなラクビーも。好きな人も。

 ボクは途方に暮れてしまった。受験シーズンも佳境に入ろうという時に、ボクは何も手につかなくなっていた。授業が終わり下校時間になっても、ボクは家に帰らずにブラブラとグランドを歩き回った。
後輩達が無心にボールを追いかける姿をぼんやりと眺めた。
 女子テニス部にも、もちろんミヨシさんの姿はなかった。ボクは彼女の笑顔を思い出した。
彼女の暖かい指先を思い出した。彼女が靴置き場に立っている姿を思い出した。彼女が待っていたのは誰だったんだろう?テニス部の男だったのか?それともボクだったのか?

 校庭を夕陽が染めて行く。ボクは赤く染まる校舎を眺めた。校舎はもう人影の無いシンとした佇まいを見せていた。ボクはグランドから靴置き場に視線を移した。真っ赤な夕陽が映し出す靴置き場は閑散とした侘しさを感じさせた。

 ん?誰か立っている。ボクは胸騒ぎを感じた。まさか、そんな訳が無い。でも…でも…。
ボクは靴置き場に向かって歩き始めた。そんな訳が無い。分かっている。でも…でも…。

 靴置き場に立っている人影は、次第に輪郭をハッキリとさせて来た。女の人だ。ボクは駆け出した。
朝礼台を過ぎた時、それが誰だか分かった。ミヨシさんだ。間違いない。
彼女は誰かを待っている。ボクは走るのを止め、辺りを見渡した。誰だ?誰を待っている?
それはボクじゃない。ボクの訳がない。

 でもボクは彼女を一人にさせる訳にはいかなかった。もう、ここから逃げ出す訳にはいかなかった。
 ボクはミヨシさんに駈け寄った。

「どうかしたの?」夕陽を浴びて、ひっそりと立っているミヨシさんに聞いた。
彼女は、少しだけ微笑んで首を横に振った。そして荷物を手に持った。
 待っていてくれたんだ。ずっと、ここに立って。ボクは胸が熱くなった。

 ボクとミヨシさんは何事もなかったように並んで歩き出した。もう一度、あの渡り廊下の10mを。
ボクらは、その10mを歩きながら何も話さなかった。話す必要なんかなかったんだ。
言葉なんて必要なかった。彼女が横にいれば、それで良かった。

 やがて渡り廊下の10mが終わった。ボクらが、いつも別れた場所だ。
でも、もう部室に行く必要はない。

 ボクはミヨシさんに手を差し伸べ、もう一度、その指先に触れた。
そして、今度はシッカリと握り締めた。ボクは彼女の手を引いて、その先へと歩き始めた。
 その先に何があろうと、ボクはこの手を離しはしない。

 ボクらが育んできた『10m分の想い』は、夕闇の帰路を照らし出すように、煌々とした明かりを灯していた。




★安穏・第二話。テーマは「甘酸っぱい」。甘酸っぱくなれたでしょうか?ダメっぽい。無理があるよな〜。こういうのは難しい。2回書き直しました(無駄な努力)。次回は少年時代が書きたいものです。テーマは「Back To 昭和40年代」まだ何も考えてないけど。

今回のBGM(書いてる時の)は、前半が矢井田さんの「モノクロレター」と「ゆらゆら」。後半が、Billy Joelの「Honesty」と「She's Got a Way」でした。これも意味ないけど。良い曲です。

こんな駄文を書き始めて2年になります。よく続いています。上達しないけど。
下手だけど書くのは面白いです。アマチュア俳句とかアマチュア・ミュージシャンとか。そんなノリで考えています。どうぞ宜しくお願いします。
posted by sand at 19:56| Comment(7) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月31日

10mの想い(前篇)

Here today gone tomorrow.jpg
矢井田瞳 / Here today-gone tomorrow

 その10mの間だけ、彼女はボクの物だった。

 ボクらは高校3年で、そろそろ進路を決める時期に来ていた。
ミヨシさんはクラスでも最も目立たない女の子で、ボクはと言えば、お調子者で皆から、からかわれる損な役回りだった。ボクは不細工で、異性には縁が無いまま高校生活が終わろうとしていた。

 ミヨシさんは、ホッソリした綺麗な顔をしていた。それは男子生徒の中でも評判だったのだ。でも彼女は決定的に明るさに欠けていた。「もっと面白かったらね〜」「暗いからな〜」男達の間では、そんな風に噂されていた。
 でもボクは知っていたんだ。彼女が、とてもチャーミングに微笑むのを。それはボクら二人だけの場所での事だった。

 ボクはラグビー部で、ミヨシさんは女子テニス部だった。クラスで、それらの部に所属してたのは、それぞれボクらだけだった。ラグビー部と女子テニス部の部室は同じ方向にあったので、ボクらは何度も渡り廊下で一緒になった。渡り廊下は約10mで、ボクとミヨシさんは、そこを並んで歩きながら話しをした。
 特に面白い話題ではなかったけど、ミヨシさんはボクの話しにニッコリと微笑んでくれた。ミヨシさんの、そんな笑顔は教室でも見た事がなかった。ボクはその微笑を見るたびに、すごく大切な物を見つけた気がした。それは本当に眩しいほど美しかったんだ。

 それからボクはホームルームが終わると、急いで靴置き場に飛んで降りて、彼女が来るまでウロウロと時間を潰すようになった。彼女はテニスラケットを持って、うつむいて現れた。ボクを見つけると、ほんの少しだけ微笑んだ。ボクはそれを見ると胸が痛くなった。その微笑みはボクだけの物のように感じ始めていた。
 渡り廊下の10m。ボクは友達の事や先生の事、それからテレビの話題なんかの話しをした。ミヨシさんは、やっぱり無口で話しを聞いてるだけだったけど、熱心に耳を傾けて時々ニッコリ微笑んだ。ボクはその顔を見てるだけで幸せになった。
 10mは、すぐに終わってしまった。ボクらは、それぞれの部室がある方向に別れた。ボクは、彼女と別れて一人になると途端に孤独になった。今まで味わった事もないほどに。

 その日は、ボクはホームルームが終わっても、テストの追試で教室に残されていた。もちろん、ミヨシさんは、そこにはいなかった。彼女の成績は優秀だったのだ。ボクは、ずいぶん遅れて部室に向かった。階段を降りて靴置き場に着くと、ミヨシさんがグランドの方を向いて立っていた。ボクは驚いた。
「あ、どうかした?」ボクはミヨシさんに聞いた。
彼女は首を横に振って、荷物を手に持った。
 ボクらは何事もなかったように並んで歩き出した。ミヨシさんは待っていてくれたのかな?
ボクは嬉しかった。そして動揺した。両手に抱えたラグビー用具を全部取り落としてしまった。ラクビージャージやヘッドキャップやスパイクが地面に散らばった。ボクは屈んで、それらを拾い集めた。ミヨシさんも屈んでヘッドキャップを拾い、ボクに手渡してくれた。
 ボクはそれを受け取る時に彼女の指に触れた。ミヨシさんの指は温かくて、とてもとても細かった。


 ボクらの時間は、それほど多くは残されていなかった。ボクらは二人とも進学希望だったし、県大会が終わればクラブ活動は終わりになってしまう。
 ボクは彼女に気持ちを伝える必要があった。ボクは彼女を好きになっていた。

 その知らせは、そんなボクの気持ちを嘲笑うように届けられた。無情にも。
ミヨシさんは隣のクラスの男子テニス部の男と付き合っているって言う噂だった。その噂には信憑性があった。確かにテニスコートで、よく立ち話をしていた。男はボクより、かなり男前だった。
 ボクは落胆した。自分が情けなかった。何を一人で思い込んでいたんだろう。彼女はボクなんかより、ずっと頭が良くて美人だったのだ。ボクなんかが手を出せる人じゃなかったんだ。

 その日からボクは彼女を避けた。ボクは、これ以上、恥ずかしい思いをしたくなかったし。彼女を問い質したりも出来なかった。
 ボクは階下まで駆け降りると部室まで走って渡り廊下を渡った。横には誰もいなかった。もう誰も必要なかったんだ。



★安穏シリーズ。第二話。テーマは『甘酸っぱい』なんすけど…。
簡単に書くつもりが長大になってしまった。本日はタイムアップ。
続きは多分、明日ですが。甘酸っぱく出来るのでしょうか?出来なかったら笑ってください。では。

★エバ緑さん、タルさん、コメントありがとう。レスは明日まで待ってくれ。
posted by sand at 17:10| Comment(2) | TrackBack(2) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月28日

October Project(金木犀)

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October Project / October Project

 「パパ。アイちゃん、先に登るね」
アイは石の階段に足をかけていた。

 アイは、その頃6才くらいだったかな?少しお姉さんらしくなっていた。
私と妻はアミの手を握っていた。アミは4才くらいで、まだ階段は無理だったと思う。

 我々家族は、山間の神社を目指していた。10月の朗らかな陽気の休日で、少し肌寒くなった風を身体に感じていた。

 「いいよ。アイ。転ばない様にね」私はアイに言った。我々の前には石造りの階段が山頂へと続いていた。アイは嬉しそうに階段を駆け登り始めた。

「あ、アイ。神社には金木犀が咲いてるよ。黄色くて良い匂いがするよ」私はアイの後姿に声をかけた。
アイは立ち止まって振り返り「黄色い花ね」と嬉しそうに笑った。

「もう10月だから金木犀は咲いて無いよ」妻が後から話しに加わった。
「そうか。もう咲いてないんだって。パパが間違えたよ」私はアイに謝った。

 アイは少し寂しそうな顔で、うなずくと、向き直って階段を登って行った。

 私と妻はアミの手を引いて、ゆっくりと階段を登った。
その頃の我々は、もう叩いても埃さえ出ないほど、金銭的に追い詰められていた。
店の売上は月を追うごとに落ちていた。借金は次々と重ねられ、身動き取れない状態になっていたのだ。

 私は追い詰められていた。すべて私の撒いた種だ。どうやって妻や子供達に責任を取れば良いのか?私の脳裏には『離婚』の文字が幾度となくチラついていた。
 妻は不安そうに私の横顔を覗き見ていた。でも、かける言葉が見つからない。

 私は間違ったのだ。取り返しが付かない間違いを犯した…

「パパ〜! パパは間違ってないよ〜! 間違ってないよ〜!」
 突然、大きな声が響き渡った。
私は、その声に飛び上がった。声は山頂から響いてきた。
 
 アイが山頂から叫んでいる。
「黄色い花が咲いてるよ〜!と〜ても良い匂いがするよ〜!」

 アイは山頂でキャッキャッと、はしゃぎながら「早く、おいで」と我々を急かせた。
 私と妻はアミを抱いて階段を駆け上がった。妻は私の方を向いてニコニコ笑いながら言った。
「やれる事しか出来ないよ! やれる事をやろうよ! それしか出来ないんだよ!」
 私には、まだ家族の明るさが残されていた。

 山頂に着くと境内の脇に、金木犀の花が咲き誇っていた。
花の周りをアイが跳ね回っている。甘い匂いが漂って来て、我々をトロリと包み込んだ。

 私は横にいる妻の肩を抱き寄せて、一生この瞬間を忘れない。と心に誓った。



☆寂しい男の話しは気が滅入るので、新しく『安穏シリーズ』始めました。
かなりベタな展開で、アレでした。
posted by sand at 12:44| Comment(5) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月21日

猫のミーコとの愛欲の日々(Too Lonely...)

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Neil Young & Crazy Horse / Life

 寂しい、寂しい…
男は、どうしようもなく寂しかった。

 男には家庭があった。健康的で明るい性格の妻とオテンバの姉と物静かな妹の二人の娘。
 それでも男は気がつくと呟いていた。「寂しい、寂しい…」

 男は自分で経営する会社を持っていた。長く良心的に働いてくれる心優しい従業員達。男の携わる商品を全面的に信頼し、変わらぬお付き合いを続けて頂けるお客様。
 男は出来すぎた宝物を手にしていた。それでも男は「寂しい、寂しい…」

 男は深夜、自分のベッドを抜け出すとバスルームに、こもって泣いた。
「寂しいよ〜、寂しいよ〜、ボク寂しいよ〜。ママ、ボクを一人にしないで。ママ、ボクを一人にしないで…」

 男は庭付きの一戸建を持っていた。郷里には別荘を持っていた。3000枚近い洋楽CDのコレクションを持っていた。仕事先にプライベートに、またインターネット上に少なくは無い友人を持っていた。男は、妻の知らない女友達を複数持ち、こそこそと逢引を重ねた。

 それでも、それらは男の空白を埋める物では無かった。何をしても、誰と一緒にいても「寂しい、寂しい…」。男の口から、その言葉が消える事は無かった。

 男は車を運転している途中、猛烈な孤独感に襲われる事があった。男は、慌てふためいて車を路側帯に止め、助手席のシートに顔を突っ込んで叫び声をあげ続けた。
「助けて〜!助けて〜!もうダメだ〜!もうダメだ〜〜!」
 男は引き裂かれるほど、寂しかったのだ。



☆脱力3部作、第三話。続きは、後ほど。

新規の依頼は、やっぱり断りました。ん〜残念。
posted by sand at 12:41 | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月13日

みの虫種の彼

Try Anything.jpg

Alan Parsons / Try Anything Once

 その日の午後になって、僕はスケキヨ君から届いていたメールの事を思い出した。

 10月の雨の朝。僕と彼女は些細な事から喧嘩になり、彼女は傘もささずに部屋を飛び出した。
 僕らは映画に行く予定だった。僕は暗い気持ちでソファに横になり、目を閉じて時計の秒針の音を聞いていた。午後の予定はポッカリ開いてしまった。僕は損をした気持ちになっていた。何かで埋められるものなら…。僕は記憶の中に手がかりを探し続けた。

 スケキヨ君のメールの事を思い出したのは、その時だった。
僕はソファから起きあがるとPCを立ち上げた。キッチンでコーヒーを入れ、雑誌の上で爪を切った。すると幾らかマシな気分になってきた。
切った爪をゴミ箱に捨てた後、冷蔵庫から柿を取り出して噛り付いた。
 スケキヨ君からのメールは2ヶ月前に届いていた。

 メールをクリックして開く。短いメールだ。
『憶えているかな?山内スケキヨです。子どもの頃、隣に住んでた。どう?思い出した?僕は君を憶えている。不思議な事に君を憶えている。会えるかな?でも、待っている訳ではない。すべては君の意志のままに』
 メールの終わりには彼の住所が書き込まれていた。彼は今、そこに吊るされている。

 僕はスケキヨ君を憶えていた。最後に彼に会ったのは、彼が『みの虫種』のライセンスを取得した日の事だった。彼は僕より2歳年上で僕はまだ高校に通っていた頃だった。
 学校からの帰宅途中、玄関先で煙草を吸っている彼に会った。「受かったよ」彼は僕に告げた。彼はこの辺りでは比較できる者がいないほどの天才だった。『みの虫種』の資格を取得出来るのは、全国でも年に一人か二人だけなのだ。
「凄いね。おめでとう」僕は彼を称えた。でも、彼がどうして『みの虫種』になるのかは理解出来なかった。

「どんな気分?」僕は感じたままに尋ねた。
「気分はないよ。何もない」彼は目を閉じて答えた。僕には彼の考えている事が分からなかった。もちろん、それを理解出来るのは、ほんの一握りの高い知能を持った者だけだったのだが。



 『みの虫種』の人々は世界中の至る場所に逆さに吊るされていた。どうして、彼らが吊るされているのかは、正直、今になっても理解出来ない。ただ、それが世界で暮らす人々にとって最も必要とされ、誰からも尊く扱われている事に間違いはなかった。

 彼らが吊るされるようになったのは、ずっと昔、まだ世界が紛争の中にあり、殺戮兵器で傷つけ合っていた頃だった。当時の人々はそれぞれ違う価値観やイデオロギー、違う宗教や違う生い立ちによって激しく差別され、また、それらを捻じ伏せる力の奪い合いに明け暮れていた。
 世界の大部分の人々が、どんなに平穏を願おうとも、それらは一部の特権的な階層によって、ひどくイビツに捻じ曲げられてしまっていたのだ。
 
 その時、ある優秀な科学者が高い橋の上から吊り下げられた。誰も彼の行動が理解出来ない。気が狂ったのだと人々は騒ぎたてた。だが、その意味を解する優秀な頭脳を持った研究者が別な場所に現れた。彼もまた高所から吊り下げられたのだ。
その犠牲ともいえる波は、瞬く間に世界中を覆って行ったのだ。世界のあらゆる場所で、その意味を解する高度な知能を持った者達が自らの身を吊るした。

 当初、彼らの行為を嘲笑った人々も彼らを崇高な存在だと認識するようになった。平穏を願う人々の願いは、『みの虫種』の人達の存在によって、一つの大きなウネリに変わっていったのだ。静かなウネリは長い長い年月をかけて、力を持つ者達を無能にしていった。『力』を『願い』が打ち倒したのだ。

 僕らが暮らす今の世の中には、些細なイザコザは有っても大きな紛争は見当たらなかった。誰もが自分が何者で、何をなすべきかを、わきまえていた。指導者は僕ら個人の胸の中にあるものだ。人として産まれ、生活を営む中で、人は自然と同じ方向を向いているものなのだ。どんな人でも。



 僕はスケキヨ君の吊り下げられた橋の下に向かう電車の中で、彼と過ごした幼い頃を思い出していた。彼と僕は、広場で遊んだ帰り道、鉄橋に下に吊るされた『みの虫種』の人を眺めながら『みの虫唱歌』を歌ったものだ。

 『みの虫唱歌』は、『みの虫種』の人達が好んで歌う童歌のようなもので、小学校の音楽の授業で習った。
なんだかヘンテコな歌で、僕らは一緒にそれを歌いながら笑い合った。

 僕は当時から秀才だったスケキヨ君に『みの虫唱歌』の意味を聞いてみた。
「ねぇ。スケキヨ兄ちゃん。『みの虫唱歌』って、どんな意味があるの?」
彼は可笑しそうに微笑んで答えた。
「さぁ。どんな意味だろう?さっぱり分からないよ」


 スケキヨ君が吊り下げられた橋の下に着いた。僕は彼に声をかける。
「やあ!来たよ。憶えていたよ」
彼は逆さまに吊り下げられたまま、目を開けて微笑んだ。
「お。来たね。また会えた」

 僕は地面に腰を下ろして、足を投げ出した。なんだか、とてもリラックスした気分だった。
「どんな気分?」僕は昔と同じ事を尋ねた。
「気分はないよ。何もない」彼も同じ答えを告げた。

 それからしばらくして、彼はこう言った。
「あの歌を憶えているかい?『みの虫唱歌』。僕は、この歌を歌うと決まって君の事を思い出すんだよ」
僕の返事を待たずに彼は歌い始めた。もちろん僕も口ずさんだ。昔のように。

 『ラベック、サベック、イトマッソ♪
  う〜い。うよょ〜〜い。うよらろ〜〜ん♪

  一番風が吹いてきた〜♪
  お庭の芥子が首を振る〜
  海を渡って来た風は〜
  赤子の髪を濡らす風〜〜

  ラベック、サベック、イトマッソ♪
  う〜い。うよょ〜〜い。うよらろ〜〜ん♪

  白粉色した綿雪よ〜♪
  子猫の髭に降り積もる〜
  お山を越えて来た雪は〜
  死人の顔を塗り込める〜〜

  ラベック、サベック、イトマッソ♪
  う〜い。うよょ〜〜い。うよらろ〜〜ん♪』


 
 僕らは、しばらくの間、この歌の余韻に浸っていた。
それから僕は彼に、こう尋ねる。もちろん僕には彼の答えが分かっている。
「この歌に、どんな意味がある?」

彼は答える。
「さあね。さっぱり分からない」

ほらね。



☆脱力3部作。第一話。お粗末でした。

体重は4k減の81Kになりましたよ。では。
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2006年09月14日

噛む女

Bare.jpg
Annie Lennox / Bare

 いつもの朝。服を着替えようとして、太ももにアザのような物があるのを見つけた。心当たりがない。
間近に見ると、それがアザでは無いのが分かった。歯形だ。
 誰かが私の太ももを噛んだ。


★週末にかけて書く予定です。
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2006年09月10日

象が舞い降りた日(後篇)

Osibisa.jpg
Osibisa / Osibisa

★駄作です!途中から、とんでもない所に話しが飛んでいった。難しかった。



「俺はこの人生に『証』を求めて生きて来た」父さんは苦しみながら話し続けた。話す事で<恐れ>から気を逸らそうとしていたのかもしれない。

「俺は不平・不満を口にせず、黙々と働いて、お前を育ててきた。誰もが俺を変わり者だと馬鹿にした。でも、一握り、ほんの一握りの人が父さんを認めてくれた。
 それで、俺はそれが正しいと信じてきた。…いや。俺はそんな風にしか生きられなかっただけかもな。
どっちにしても俺は、ずっと耐え忍んで、ずっと自分を殺して、いつか、いつか、この世に産まれて来た『証』を手に入れようとしていた。それさえあれば、父さんの人生は『無』ではなかったと証明出来そうに思えたんだ。
 だが、お前を、その『証』にする訳にはいかなかった。お前は、お前で、俺のものじゃない。お前は、俺の全てであっても、俺は、お前の全てではない。あってはならない。

 それで俺は勤勉に働いた、手を抜かず家事をこなし、お前に愛情を注いだ。その姿を誰かが認めて、俺に『証』となるものを授けてくれる。そう信じた。そう願ってきた。それを求めて生きてきた。

 結果を言えば、それは見つからなかった。
俺はいつまでたっても貧乏で、若くて能力のある部下達に追い抜かれ窓際に追いやられてしまった。お前に幸福な生活も分け与える事が出来なかった。俺は負けたんだ。どんなに真面目に働き、生活しても、父さんには、それは授けられなかった。能力がなかったんだ。

 俺は、このまるで無価値な人生に別れを告げ、本当の『無』になろうとしている。どんな世界だろう?本当の『無』とは、今のこの人生と、どれほど違うものなのだろう?

 なあ。父さんは、お前には、どんな姿に映ってきたんだろう?
俺が、どんな風に見えるか?」


『俺が、どんな風に見えるか?』象は、もう一度、オイラに尋ねた。オイラは、その言葉を前に一度聞いた事があった。
 父さんが死ぬ前にオイラに尋ねた言葉だ。でも…でもオイラは何も答える事が出来なかった。
オイラは涙をボロボロ零すだけで、馬鹿みたいに、ベットの横に突っ立っていたんだ。

『俺達は願いを叶えた成功者だった。地上の誰もが俺達を羨望の眼差しで見上げた。だが、俺達はそこに降りて行く事が出来なくなっていた。もう戻れなくなってしまっていたんだ。
 空の楽園は、俺達の望みの全てを授けてくれた。
だが、それは俺を俺として在らしめるものではなかった。それは、どれほどの時が過ぎ去ろうと宙に浮かんだ『願い』でしかなかった。
 俺は望みの全てを手に入れる為に、全てを手放してしまったのだ。俺が俺であり、お前ではない。と言う当然の事をだ。

 俺は、このまるで無価値な一生に別れを告げ、本当の『無』になろうとしている。
お前の目玉に映る、俺は、一体どんな姿に映っている?
 俺が、どんな風に見えるか?』


 象は繰り返しオイラに聞いた。だが、象にはオイラの姿が見えていない。象はオイラの言葉なんか求めていない。
 でも、オイラには言うべき言葉がある。言わなければならない言葉がある。
オイラには父さんに言わなければならなかった言葉があった。でも父さんは「黙ってりゃ良いよ。無理なんかするな」とオイラに言った。だからオイラは黙っていた。黙って泣いていた。そして父さんの瞳は永遠に閉じられた。オイラは一人ぼっちになっちまった。

 今、オイラは声を出して、それを伝えなければならない。永遠の終わりの前に、それを叫ばなければならない。

 オイラは腹に力をいれて、象に向かって大声を張り上げた。

「オオオ、オイラは、あんたを知っている!オイラは、あああ、あんたに気がついていた!オイラと父さんは工場の裏の丘から、あんたをずっと見ていた!オイラと父さんは、あんたを目で追いかけ、大空を泳ぎ回った。オイラ達は、あんたと一緒に空を泳いでいたんだ!あんたはオイラ達の夢だった!
オイラ達が、ここに生きている『証』だったんだ。あんたの存在がオイラ達がここで生きているって事を全部、証明してくれる!
あんたが空を泳いでくれたからオイラ達は、地上で生きてこれた!

 死んだ父さんが、こう言ったよ。
「黙って一つの事をずっと続けろ。誰かが気がついてくれる。誰かが俺達に気がついてくれる」ってね。

だからオイラは、あんたに気がついてた!遠い地上から、あんたの姿に癒され、勇気付けられて来た。そして、それはオイラ達だけじゃない!この地上のあらゆる生き物が、あんたの姿を追っていたんだ!

 あんたは無価値なんかじゃない。父さんも無価値なんかじゃない。そしてオイラもそうだ!
あんたも父さんもオイラも、もっとずっと大きな存在の一部なんだ。もっと、ずっとずっと大きて輝いている存在に含まれているんだ!
ずっと誰かが気がついている!ずっと誰かがオイラ達に気がついてるんだ!」


 象は始めてオイラに顔を向けた。象はオイラの顔を見つめた。象はオイラの姿を認めたのだ。
それから象は大きな溜息をついた。それは安堵を感じさせる溜息だった。

『生き物の声って良いな』象は再び話し始めた。でも声のトーンが違う。とても落ち着いた声に変わっていた。
『俺は生き物の声が持つ力を知らなかった。俺達は所詮、不完全な存在でしかないのか。だから、声が必要なんだな。声を掛合う事で、俺達は、その存在を確認しているのかもしれない。
一人では不完全なのだ。誰かの声を聞く事で、俺達が俺達自身で在る事を知る。

お前は、俺を俺自身だと気付かせてくれた。その声でだ。

お前は良い声をしている。俺にしっかり届いたよ。
歌ってくれないか?俺が消えても。歌い続けてくれないか?』


象はニッコリとオイラに微笑んだ。それから真面目な顔になって、こう続けた。

『お前と話しが出来て良かった』

直ぐに象の身体は二倍くらいにまで膨れ上がった。『バン!』と破裂音がして、象の身体は跡形もなく弾け飛んだ。後には何も残らない。だが、象の言葉はオイラの胸に残された。

 その破裂音の後、オイラの中でも何かが弾け飛んだような気がしていた。
もう以前のように話す事が怖くはなくなっていた。オイラは気持ちを伝える事が出来る。
オイラは街に溢れる言葉を上手に並べる必要なんかなかったんだ。オイラはオイラの言葉を産み出せば良かったんだ。誰かが必要としている言葉を。

 オイラは空を見上げた。空には大きく力強い太陽が燦燦と輝いている。
オイラは太陽に手を伸ばす。そして太陽とオイラの間にビッシリと連なる『名も無き存在』を感じ取る。

 オイラは一人じゃない。オイラは歌い続けなければならない。誰かに届くように。
posted by sand at 17:59| Comment(2) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月08日

象が舞い降りた日(中篇)

heads.jpg
Osibisa / Heads

 Osibisaは知らなくても『Sunshine Day』なら知ってる(かも?)試聴は、こちらをクリック。

 オイラは父さんに育てられた。母さんの事は何も知らない。生きてるのかも、死んでるのかもしれない。父さんは何も話さなかった。オイラも何も聞かなかった。オイラと父さんは世の中の端っこで生きてきた。だから全部を知る必要なんかなかった。それを知ったとしても、オイラには手の届かない事なんだ。きっと手に余る事なんだ。
 オイラは学校でも仕事場でも友達なんて出来なかった。誰もオイラを憶えてはいなかった。オイラは誰からも記憶されず、教室や職場に一人置き去りにされてきた。「あ、お前いたのか?」誰かが思い出したようにオイラ認め、そのまま直ぐに忘れ去った。オイラは顔も頭も悪かったし、言葉が上手く話せなかった。オイラがこの世に存在する意味など最初から無かったんだ。
 オイラは忘れられる為に産まれて来た。オイラは、そこにいても、そこにはいなかった。存在なんかしなかった。

『その時、俺達は空の中に存在していた。喜びのあまり俺達は、もっと高く高く、その棲家を変えていった。空に近づけば近づくほど、俺達の願いは確かなものになると信じて疑わなかった』象は長い鼻を持て余しながら話し続けた。

『だが空を上れば上るほど、願いが叶えば叶うほど、俺達は孤独になって行った。もう誰も俺達に触れられる者はいなかった。俺達が触れる事の出来る生き物は、周りにいなくなってしまったのだ。
 
 大空は楽園だった。かって俺達の先祖が夢に見た楽園そのものだった。
そこには争いも侵略も憎悪も差別もなかった。大空に抱かれた平和で平等な楽園だった。だが、それは俺達の今日と明日を曖昧にしてしまった。それが今日であろうと明日であろうと寸分も違わない一日に変わりが無かった。俺達は幸福と言う囲いの中で、その存在を失って行った。
今日の俺が俺である必要などなかった。俺が俺として今日、存在する必要などなかったのだ』


「無って、どんなものだろう?」
父さんは病院のベットに横になったまま、オイラに尋ねた。それから激しく咳き込んだ。父さんは辛そうだった。でも、父さんは話すのを止めなかった。だって、オイラも父さんも、その事を知っていたから。父さんの病気が、もう手遅れだと言う事を。
posted by sand at 12:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月07日

象が舞い降りた日(前篇)

woyaya.jpg
Osibisa / Woyaya

★まるで、まとまりません。読まない方が良いでしょう。とりあえず途中まで書いたので・・・

 オイラは電柱に止まった象を見上げていた。
象を間近で見るなんて信じられない。オイラはワクワクしていた。
もちろん目の前で象を見た事のあるヤツなんて誰も知らない。

 象は空に住む生き物だ。それも飛び切り高い空だ。
子供の頃、父さんと一緒に『空の茂み』を見上げたもんだ。父さんは象の群れを眺めるのが好きだった。
人一倍無口で生真面目な男だったけど象の事になると熱く語ったもんだ。
オイラと父さんは工場の裏にある丘の上に寝転がって、象の群れが『空の茂み』から飛び立ったり、舞い戻ったりする姿を見上げていた。
 もっとも象の姿は蟻くらいの大きさにしか見えなかった。
長く目上げていると目が疲れて痛くなった。けど父さんは飽きずに何時間も見上げていたっけ。

 象は丸々とした巨体を折りたたんで電柱の天辺に腰かけていた。腰掛けてるって言うより引っ掛かっているって言った方が良いかな?巨大なアドバルーンが電柱に絡み付いて風に揺れている感じがした。
 象は遠くを見ていた。オイラには気付かない。ずっと遠くのビルの群れに沈んだ視線を向けていた。

『俺が、どんな風に見えるか?』象はオイラに視線を向ける事なく、そう聞いてきた。

 オイラはドキドキしながら辺りを見渡した。誰もいない。まだ朝焼けが残る早朝だった。さっきから、この脇道には車も通っていなかった。

「あの〜。オ・オ・オイラに話しかけたのかな〜?オ・オ・オイラ上手く喋れない。たぶん、が・が・がっかりする…だから、だから、他の人が良いよ。もっと、ス・ス・スラスラ喋れる人が良いよ」
 オイラ、父さんに似て喋りが苦手だった。オイラが喋り始めると皆困った顔をして話しを終わらせた。オイラは喋ったらいけない人間なんだ。そうすれば皆が上手くゆく。

 父さんは『空の茂み』を眺めながらオイラに話したもんだ。
「黙ってりゃ良いよ。無理なんかするな。黙って一つの事をずっと続けろ。誰かが気がついてくれる。誰かが俺達に気がついてくれる。…そんなもんだ」

『お前に興味はない。俺はお前の目玉に映る、俺の姿に興味があるだけだ』象はやっぱり遠くを眺めながらオイラに話しかけた。象は随分弱っているように見えた。
『俺はもうすぐ死ぬ。俺達は死ぬ直前にだけ地上に舞い降りる事を許される。と言うより身体が重くなって自然に落っこちるだけだがな。
知ってるだろ?俺達の身体は空洞だ。何もありゃしない』


 父さんは病院のベットに横になってオイラの手を握り締めて、こう言った。
「無って、どんなものだろう?」

『かって俺達の祖先は地上に住んでいた。そして信じられないくらい重い身体を持っていた』象は何かを確認するように話しを継いだ。それはオイラじゃない。象は自分自身に向かって話かけているような気がした。
『先祖達は重い身体を引き摺りながら、大空を見上げて願ったのだろう。空へ。空に駆け上がりたい。
俺達は純粋な種族だった。呆れるほど純粋だったのだ。俺達の総意は空に向かっていた。他の可能性など微塵もよぎる事はなかった。
 幾代も幾代もの祖先は倒れ、幾重もの幾重もの願いが残された。
俺達の身体は少しずつ少しずつ変異して行った。小さな羽根は、やがて力強さを増していった。鉛のように重かった身体は、風船のように軽々と空に浮かんでいった。

 ある時、遂に俺達の先祖は大空を羽ばたいた。それは俺達の誇りの瞬間であり、呪いの始まる瞬間であった』
posted by sand at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月30日

象が舞い降りた日

Osibisa.jpg
Osibisa / Osibisa

 オイラは電柱に止まった象を見上げていた。
象を見るなんて信じられない。オイラはワクワクしていた。
もちろん象を見た事のあるヤツなんて誰も知らない。

 象は空に住む生き物だ。それも飛び切り高い空だ。
子供の頃、父さんと一緒に『空の茂み』を見上げたもんだ。父さんは象の群れを眺めるのが好きだった。
人一倍無口で生真面目な男だったけど象の事になると熱く語ったもんだ。
オイラと父さんは工場の裏にある丘の上に寝転がって、象の群れが『空の茂み』から飛び立ったり、舞い戻ったりする姿を見上げていた。
 もっとも象の姿は蟻くらいの大きさにしか見えなかった。
長く目上げていると目が疲れて痛くなった。けど父さんは飽きずに何時間も見上げていたっけ。



★途中までです。最後まで辿り着くかな〜?どうかな〜?
posted by sand at 21:05| Comment(5) | TrackBack(1) | 超短編小説C | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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