2010年10月02日

Racing In The Street


Darkness on the Edge of Town

Darkness on the Edge of Town

  • アーティスト: Bruce Springsteen
  • 出版社/メーカー: Sony
  • 発売日: 1988/05/19
  • メディア: CD



18か19の頃、海岸線に伸びるバイパスで交通整理のバイトをしていた。
夜の8時くらいから翌日の早朝まで、海ノ中道から志賀島に伸びる海岸線に沿った道路に突っ立っていた。
 ほとんど一直線の見通しの良い道で、交通量も極端に少なかった。比較的楽なバイトだったと思う。気の遠くなるほど時間が進まなかったことを除けば。

 朝までに3度くらい休憩があった。わりと長めの休憩で、もう一人のバイトの男とノリの悪い会話をした。同じ大学生(大学は違った)で、歳も同じだったと思う。私は当時から今に至るまで会話が不得手で、人と交わるのは苦手だった。ノリの良い相手だと気まずい思いをしたが、その日の彼は口数が少なかった。普段は違ったかもしれないが、その日の彼は自分以上に会話が重く、私は彼の途切れ途切れの返答に親しみを覚え、普段より余計に彼に話しかけたことを覚えている。

 深夜の海岸沿いの道路に座り込んで、滑舌の悪い若い男が必死になって相手に何かを伝えようとしている姿は、実にカッコ悪く、まったくもってイケてない。
それでも、その日の私は雄弁だった。溜まっていた物を吐き出すがごとく喋り続けたのを覚えている。どうにかして、その彼に、自分が何者であるか、何を抱え、何に怯えているのかを訴え続けたのを覚えている。
 厄介な男に捕まった、その彼は、腕組みをしてウンウンと頷き、考え込むような素振をしてくれた。彼にとっては長い夜だったろう。実際、その夜は果てしなく長い夜だったのだ。

 2度目か3度目かの休憩の時に少し離れた場所にあるコンビニまでコーヒーを買いに行くことになった。我々がコンビニに向かっていると、作業員の男が追いかけてきて「コンビニに行くのか?」と聞いてきた。「そうだ」と答えると「タバコを買ってきてくれ」と小銭を渡された。真っ黒に日焼けした、その男からは焼け焦げるような匂いが漂っていた。

 舗装を掘り返されてデコボコになった道路を二人並んで歩いた。無口な彼が将来の話を始めた。とてもハッキリと描かれた将来で、彼がそれに情熱を持っているのを感じた。私は、ひどく取り残された気分になった。当時の私は将来など、まったく描けていなかった。

 海風が激しく、海のうねりが地面を這うように迫っていた。私は暗い海に目をやって、その海があまりにも暗く、あまりにも大きいことを目の当たりにしていた。暗過ぎるし、大き過ぎる。とても自分の手には負えないと。

Bruce Springsteenの「Racing In The Street」を聴いていると、その日の夜の海のことを思い出す。若さとは不毛さだと思い出す。歳を重ねた今となっては、小賢しく、ソツなく生きようとする今の私は、当時の私から、どんな目で見られているのだろう?と思ったりする。

 あの日、若き日の私が必死になって語りかけていたのは、老いることの不毛さに怯える今の私だったのではないだろうか?

posted by sand at 16:29| Comment(0) | 音楽コラム・Bruce Springsteen | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月19日

Greetings From Asbury Park, N.J.(1973)Bruce Springsteen

Greetings From Asbury Park.jpg
Greetings From Asbury Park, N.J.

「そして彼女はあの光で目がくらみ。すごい勢いでもうひとりの夜のランナーを切り離した。あの光で目がくらんで。ママがいつも言っていた。太陽を見つめるんじゃないよって。でもママ、そこにおもしろいことがあるんだ。」Blinded By The Light

「完結したファースト・アルバム」「エレガントな浮遊感」。
Bruceのファースト・アルバムを聴いて感じる事だ。どんなアーティストにも言える事だが、ファースト・アルバムは、その後の展開から切り離された独自のポジションにある場合が往往にして見うけられる。Bruceの場合もまた、しかり。このアルバムは、当初フォーク・アルバムとなるはずだったのを、Bruceの猛反対でバンドサウンドを伴ったアルバムに変更された。しかし、それは彼の意図を充分汲み取る形ではなかった。
結果的に以後の、どのアルバムとも違う質感をかもし出している。Bruceの意図する物ではなかったとはいえ、これはこれで充分完成された作品だと思う。

「メアリー、ぼくの女王、きみのやわらかい残骸が生き返る。」Mary Queen Of Arkansas
「その女性は、みがきあげられたクロームをなで、天使の骨のそばに横になる。」The Angel

この2曲の弾き語りナンバーに顕著のように実に女性的でエレガントな歌詞、ティム・バクリーを思わせる官能的で浮遊感に満ちたサウンド。これらに見られる特徴は、猥雑で喧騒に満ち男性的な彼のその後の世界感からは、置き去りにされたような感じさえ受ける。

「そして地下鉄の賢人が生ける屍のようにすわっていた。線路がリズムから飛び出すと連中の目がじっと前を見つめ、バランスの線に乗り、たった1本の糸にしがみついている。」It's Hard To Be A Saint In The City

これらは、即座にディランの歌詞を思い起こさせるが、ディランの歌詞が、様々な言葉の断片から、ある一つのイメージを想起させるのに比して、ここでの彼の言葉は、飛び散る火花のように、弾けるような鮮明なイメージを提示して、すぐさま消えて行く。
この爆発する言葉は、以降次第にフォーカスを絞り込み、やがては物語に変わる。

さて、Growin' Up、Spirit In The Nightなどの、その後のショーで重要な位置を占めるナンバーは、著しくライブ感に乏しい録音と言わなくてはいけない。
しかし、It's Hard To Be A Saint In The Cityは、このアルバムでしか出せないような品のある仕上がりで素晴らしい。

知名度の高いBlinded By The Lightも、やはり演奏の練り込み不足を暴露してしまっている。このバージョンならば、大ヒットしたManfred Mann's Earth Bandバージョンをおすすめしょう。優れたポップ性を有しながら広がりのあるスケールの大きなバージョンだ。彼らには、この曲以外にもFor You、Spirit In The Nightのカバーがある。

「でも おれはそんなもののために やって来たんじゃない。おまえにもわかってるはずだ。おれはおまえのために来たんだ。おまえのために。」For You

そう、彼はやって来た。我々のケツを蹴飛ばしにね。
posted by sand at 16:48| 音楽コラム・Bruce Springsteen | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月13日

Nebraska(1982)Bruce Springsteen

Nebraska.jpg
Nebraska


「バトンを回しながら彼女は前庭の芝生の上に立っていた。俺と彼女はドライブに出かけ10人の関係のない人間を殺した。」Nebraska

82年、ヒットした「The River」に続くアルバムは、アコースティック・ギターによる弾き語りだった。
地味な呟くような歌唱と爪弾く最小限の伴奏。嫌が上でもウディ・ガスリーや初期のディランのスタイルを思わせた。

続きを読む
posted by sand at 05:22| 音楽コラム・Bruce Springsteen | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年03月11日

Tunnel Of Love(1987)Bruce Springsteen

Tunnel Of Love.jpg
Tunnel of Love

「ダイヤや金は山のように持っている 銀行に保管できないほどの有価証券を持っている 国の端から端までいたるところに家を持っている みんなが俺の友達になりたがる この世で誰も持てなかったような富を持っている が、持っていないものがひとつある おまえを持っていないんだ」Ain't Got You

メガ・ヒットとなった「Born In The U.S.A.」がもたらした物は、強固なナショナリストとしてのイメージ、「Springsteenタイプ」とも言えるマッチョなフォロアー、そして巨万の富だった。

「Born In The U.S.A.」に続くオリジナル・アルバムとして(間に総決算ライブ盤を挟むが)「Tunnel Of Love」がリリースされたのは、そんな過剰な風潮の真っ只中だった。

私は、このアルバムが、何より好きだ。最高傑作とかそんなんじゃなくて、とても愛着の持てる作品だ。
続きを読む
posted by sand at 02:19| 音楽コラム・Bruce Springsteen | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。