2011年08月28日

入道雲より

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Elvis Costello / Mighty Like a Rose

T
 僕は9号ボートの前で船長の帰りを待っていた。平日のボート乗り場は人気が無く、桟橋に繋がれたボートの群れはイナゴのように見えた。9号ボートはその左端にポツンと寂しそうに浮かんでいた。

 切符売りの親父との交渉を終えて、船長が戻って来た。船長と言っても女の子で僕と同じ歳だったが。彼女は切符売り場の親父と仲が良く、親父の機嫌が良ければ3度の内1度は無料になった。それで彼女が船長になった。

 9号ボートは水を切って進んだ。8月も終わりになると水面は涼しく感じられた。空に浮かぶ入道雲はその圧倒的な存在感に比べて、フワフワと落ち着きが無く、どこか軽く頼りなかった。それはその年に僕らが過ごした夏の日々と重なっていた。

「もう夏も終わりだね」僕は独り言のように言った。「魔法をかけてあげるよ」ボートの向かい側から船長の声がした。
「どんな魔法?」「永遠に夏が終わらない魔法」船長は目を閉じたまま半分寝言のように言った。
「ふん」と僕は言った。正直どうでも良かった。夏が終わっても、終わらなくても、どっちでも良かった。「さあ目を閉じて」船長は目を閉じたまま言った。
僕はため息をついてから目を閉じた。「三つ数えてから目を開けて。それじゃ行くよ。ひと〜〜つ」船長はとても間延びしてカウントした。「ふたあ〜〜〜つ」どうててだろう。僕は三つ目のカウントを船長から聞いた覚えが無い。船長は三つ目のカウント前に寝てしまったのだろうか? 実を言えば僕もカウント中に眠ってしまったのだ。そして僕は夢をみた。「ねこ渡船所」の夢をみた。

 ネコ達は向こう岸に渡るために船を待っていた。どのネコもカバンを持っていて、色々なモノをそこに詰め込んでいた。「夢」だったり「希望」だったり「成功」だったり「お金」だったり「愛」だったり「幸せ」だったりした。でも船はいつまでたっても到着しなかった。向こう岸は目に見えるほど近く、泳いでも渡れそうに思えた。でも泳いで渡るネコは一匹も見なかった。なぜなら、その海はガラスの海。誰も傷つきたくはなかった。その海は赤い色をしていた。誰かが血を流して海を渡ったのだ。でも、ここにいるネコにはそれが出来ない。もちろん僕も待ってる事しかできなかった。船長がここに到着するまで。

U
 1985年の夏はとても暑かった。いや、実際調べてみれば、そうでもなかったかもしれない。僕らがクーラーのない生活して暑い場所に頻繁に顔を出していたからかもしれない。その夏、派手な柄のアロハシャツをグッショリ汗で濡らしてプールバーにいた。店に入るまで廊下で3時間待たされた。船長は頬杖をつき過ぎて右あごを真っ赤に腫らしていた。冷えたバドワイザーを飲みながら僕らはキューを握っていた。
「ナインボールってさ。なんか不安定じゃない? 多すぎるような。少なすぎるような。どう思う?」船長は僕に聞いた。
「どうも思わない」僕は集中して玉を突いていた。
「へ。ノリが悪いんだ。そんな事言ってるとね。今夜は雨になるよ」
 僕はバーの窓ガラスに浮かぶ夜空の星を見て言った。「星が出てるよ。雨は降らない」
船長は腰に手を当てて缶ビールを一口飲んでから「心の雨は、夜しか降らないの」と言った。

 バーを出て最終のバスに乗った。「どこに行く?」と船長は聞いた。「どこにも行かない」と僕は答えた。それから一言付け加えて「どこにも行けないなら、どこにも行かない」と言った。「変な人ね。じゃ帰るのね」と船長は言った。僕は船長の腰に手を回して「君の中にいたい」と言った。「スケベ」と船長は手を払って一つ前のシートに移動した。一人になった僕は星空を眺めながら、やがて訪れる夜の雨を待っていた。

 バスから降りると船長は泣き始めた。時々船長はそうなった。時々そんな風に自分の船を揺らした。そうなると僕にはどうする事も出来なかった。僕は船長の肩を抱いて、その涙を見つめた。船長の心に降る雨を見つめた。

 船長を自室まで送り届けてベットに寝かせた。その後、船長の机に座って煙草を吸った。それから机の上に転がっていた付箋紙に目を留めた。
 青色のラッションペンを取り出して付箋紙に心に浮かんだ言葉を書き込んだ。
一つ目の付箋紙には「9号ボート」と書き込んで電気スタンドに貼り付けた。2番目の付箋紙には「ナインボール」と書いた。3番目の付箋紙に「9月の予感」と書いて貼り付けた。電気スタンドには3枚の付箋紙が並んだ。キーワードは「9」だ。最後の付箋紙に「夜の雨」と書いた。
 九つの魔法が解け、やがて夜の雨が訪れる。
 
V
 2011年の夏の終わり。僕は一人だった。あの夏の暑さも、あの夜の喧騒も、もう過ぎ去ってしまった。もちろん船長も、ここにはいない。答えというものは、いつも自分の手の中にあって、それが答えだとは気がつかない。それが答えだったのだと気がつくのは、それを手放した時だ。それを失った時だ。

 船長の最後のカウントはどこに行ったのだろう? あのカウントを取り戻せば、僕はあの日に戻れるのだろうか? あの夏に帰れるのだろうか?
 
 あの夏、僕らを包み込むように、優しく、やわらかく、そして間延びして存在した。ただ存在した。あの入道雲のように。



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2011年07月03日

44

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Syd Barrett / Radio One Sessions

「昨日、ドミノを倒したよ」

44が、私に声をかけたのは、スポーツクラブのラウンジだった。彼はシャワーを浴びた後のようで上半身は裸だった。
「何年続いてた?」私は手にしていたスポーツドリンクを彼に勧めたが、44は右手を振って断り「3年」と答えた。

「良い頃合だね」私は44の隣に腰を下ろした。「まあね」44は満足そうに頷いた。
「もう始めたかい?」私は額に流れ落ちてくる汗をタオルで拭いた。「ああ。すこしばかり時間はかかったけどね。また始めたよ」

 私はスポーツドリンクで喉を潤した。「3年は彼にとって幸運だったね。良い経験で、けりが付く」44は髪を短くして精悍な感じを与えた。薄っすらと伸びた無精ひげも彼の品位を落とすほどではなかった。
 44は微かな笑みを湛えながら「誰もが私を悪魔だとか死神だとか呼ぶ。だけどね。考えてみてくれ。ドミノは最初から倒れるものだよ。それを分かった上で始めるんだ。けれど、いつしか、それを忘れてしまう」と言った。
「そして君の出番が来る」私は44に笑いかけた。
「君のドミノは何年になる?」44は真顔で私に聞いた。
「もう18年になる」私の声は緊張する。
44は笑顔を見せて「君のドミノを倒すのは、まだ先のことだよ。どのくらい先かは分からない」

 44が私の並べているドミノに指をかけている事は分かっている。彼はいつでも指先に力を加える事が出来る。一つ、倒れれば一瞬のうちに終わってしまう。3年であろうと18年であろうと30年であろうと。でも私はいつも考えることにしている。「それが終わりではない。また直ぐに始めることができる」と。
 実際、終わりなどはないのだ。その人が死んでしまうか、諦めてしまった時が本当の終わりだ。

 次に44に会ったのは早朝の路上だった。私は納品の途中で路側帯に車を止め、酒屋の前にある自販機で缶コーヒーを買い求めた。44は自販機横の植え込みに、うずくまっていた。かなり酷い状態だった。酒の匂いが強くした。私は44を抱え起こすと酒屋のシャッターの前に座らせた。冷たい水を買って彼に与えた。彼は水を飲み干した後「すまない」と口にした。

 少し落ち着いた後に彼は語り始めた。まだ夜は明け切れず、車も人も見かけなかった。私は彼の横に座って話を聞いた。
「50年以上続いたドミノだった。その人は3代目で誠実で真面目な人だった。でも真面目過ぎたんだね。頑なになり過ぎて、時代の流れに対応できなくなってしまった。それが彼を追い詰めた。でも彼は変わることが出来なかったんだね。それでドミノは倒れた。さらに悪いことに奥さんと子供を道連れにしてしまったんだよ」44は溜息をついた。
「死んだのかい?」私が尋ねると44は深くうなずいた。

 私は言葉を失ったが、なんとか彼に声をかけた。「その人が弱かったんだよ。君がいつも言うようにドミノはいつか倒れる。それをその人は受け入れられなかった。それがドミノなんだと言う事を忘れてしまった。最初から確かなモノなんか一つも無いことに気がつかなかった。その人があまりにも世の中を知らなかっただけだ。奥さんと子供の事を思えば、地面に這いつくばって、もう一度、最初から始めなければいけなかった」44は憔悴しきった目を閉じてまま、それを聞いていた。44は何も答えなかった。
 私は納品の続きもあって、彼をそこに残したまま、車に乗った。

 その後もテレビやネットのニュースで44の動きを垣間見ることが出来た。44はドミノを倒し続け、倒された者達は、また新たなドミノを並べ始める。いつ、どこで、44がやってくるのか誰にも分からない。理由も時期も関係なく、心情も言い訳も通用しない。

 ただ並べられたドミノは、いつしか倒されてしまう。44の指先からは誰も逃げられない。



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2011年06月26日

その夏、僕らは首縊りの家にいた

Islands.jpg
The Band / Islands

 18の夏に運転免許を取った。最初に行ってみたいと思っていた場所があった。小学5年の途中まで住んでいた、生まれ育った家だった。父は誰かにその家を売ったのだが、山の中にポツンと建っている不便なだけの家だった、今は空き家になって放置されていると聞いていた。小学2年の冬に祖父がその家の裏で首を吊った。僕はもう一度その場所に立って、祖父が最後に見た景色を眺めたかった。18歳の青年の抱える悶々とした悩みを解く鍵が、その場所にあるような気がしていた。そこで何かが待っているような気がしていた。

 高校を卒業した頃から弟と会話しなくなった。僕は弟をいつまでも子分のように思っていたが、弟はそんな僕を疎ましく感じていたようだった。それでも、その場所には弟と行く必要があるような気がした。僕は弟にその事を話すと、すんなり了承した。弟にも何か思うことがあるのだと感じた。僕たちは日程を合わせて日付を決めた。他の家族には内緒にした。

 その日は朝から強烈な日差しが照りつけていた。8月の真夏日だった。母の車を借りて、山の中に埋もれた家に向かった。弟は助手席の窓を開けて外の景色を眺めていた。僕は運転免許を取得したばかりで余裕がなかった。冷や冷やしながら必死にハンドルを握っていた。その車の中では一言も会話しなかった。カーステレオから雑多な年代のアメリカンロックが流れていた。The Bandの「Georgia on my Mind」、Eaglesの「Hotel California」、Creedence Clearwater Revivalの「Green River」、Beach Boysの「I Get Around」……。

 昔住んでいた家は藪の中に埋もれていた。僕と弟は照りつける日差しに顔をしかめ、大粒の汗を流しながら、廃墟に分け入った。建付けの悪い母屋の雨戸は直ぐに開いて、容易に中に侵入できた。中はかび臭く、真夏でも冷たい空気が閉じ込められていた。他人の住んだ後で昔の記憶とは微妙に違っていた。僕たちは少なからず失望して母屋を離れた。母屋の横に農作業の道具を収納する納屋があった。そこは、ほぼ昔のままだった。僕たちは子供に帰って、梯子で納屋の2階に上ってみたりした。子供の頃、弟と二人で「かくれんぼ」をして遊んだ。弟はこの隅で米の袋を被って隠れていた。弟はいつも同じ場所に隠れて、いつもすぐに見つかった。

 建物の裏手に牛小屋があった。僕の記憶にはないが、その昔には牛を飼っていたと祖母から聞いた。そこには薪が積み上げられていて、僕は学校から帰ると祖母の手伝いで薪割りをしていた。その後、風呂の焚き付けをした。薪に火を移す作業はとても難しく、僕は何度も祖母から火の起こし方を習った。裏にはニワトリを飼っていた小屋もあった。お祝い事があるとニワトリを締めて食べた。首を切り取られたニワトリをタライの上に吊るして、一晩かけて血を抜く作業を手伝わされた。

 裏山に登っていく小道の横に祖父が首を吊った大きな柿の木があった。今は誰かに切り取られて、もう無かった。僕はその場所に立って辺りを見渡した。昔、見慣れた景色が広がっていた。そこは昔と少しも変わっていなかった。多分、これから先も、ずっと変わらないのだと感じた。その場所は開発などから見捨てられた離村なのだから当然の事であった訳だが、それとは別に、時代と共に変わって行けなかった祖父の終焉と重なって哀しい景色に見えた。変わる事にも、変わらぬ事にも、覚悟が必要なのだ。祖父にはその覚悟がなかった。変われぬ自分を嘆き、変わろうとしない自分を受け入れられなかった。弱い心を持った祖父を哀れんだ。と同時に祖父の死は、それほど特別なものではないと感じた。いささか自分勝手だが、普通に生活する人間であれば誰もが抱いている気持ちだった。祖父はその一線を越え、僕たちは、まだこちら側にいる。それだけの事なのかもしれない。

「川に入ってくる」弟は僕に告げて、子供頃一緒に川遊びをしていた小さな川まで歩いて行った。
夏休みになると裏山にクワガタやカブト虫を取りに行った。川に入って川魚を素手で取った。川に入るときは祖母が付いて来て、小さな橋の上から僕たちの遊ぶ姿を見守っていた。

 僕は先に川に入った弟の姿を、祖母が見守っていた橋の上から眺めた。
弟はしばらく石の裏に手を差し入れて川魚を探していた。僕は橋の上から弟に向かって声をかけた。
「何かいたか?」

 弟は首を振って答えた。「もう、ここには何もいない」




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2011年06月25日

Avenue of Stars(接続詞の探し方)

Andromeda Heights.jpg
Prefab Sprout / Andromeda Heights

 僕は夜の病院に忍び込んだ。裏庭に回ると植え込みの陰に、人が立っているのが分かった。彼女だ。夏の星座に照らし出された彼女は、この世の者とは思えないほど綺麗だった。実際、彼女は違う世界に住んでいた。僕らが暮らす世界とは、僅かに違っていたのだ。

 精神に疾患を抱えた母の入院生活は、実社会とは隔離されたものになった。母は拘束されることさえ無かったが、外出等を厳しく制限された規則正しいサイクルに身を置くことで社会復帰を目指していた。母の入院した病院は、小高い丘の上にあり四方を緑の芝生に囲まれていた。僕は授業が休みになると、都心部から離れた場所にある病院まで、列車を乗り継いで面会に訪れた。母との面会は気の重くなる務めではあったが、僕にはそれとは別に、ささやかな楽しみがあった。母といつも一緒にいる入院患者の女の子と会えるからだった。
 彼女は恐らく僕と同年代で(少し年上かもしれない)まるで人形のような美しい顔をしていた。何もかもが選りすぐられたように見事に整っていた。長い睫毛、大きく見開かれた瞳、ほっそりとした高い鼻、薄く哀しみを湛えた唇。だがそれらが、あまりに整いすぎているが故に、彼女の美貌は現実から遊離しているかのように感じられた。

 彼女には表情というものが見当たらなかった。いつも無表情で煙草を吸っているだけだった。
僕が母の面会に訪れると彼女は決まって母の隣に座って煙草を吸っていた。「やあ元気かい?」僕は暗い声で母に声をかける。「ああ、元気だよ……」母はまるで魂の抜けた死人みたいな表情で、他人事のように答えた。僕はその顔や声を目の当たりにすると、やり切れない気持ちになった。
それから僕らは、ひどく間延びした臨場感の無い面会を神妙にこなして行った。母は朦朧とした表情で煙草を吸い続け、時折、思い出したように僕に話しかけた。僕はそれらの質問に辞書を引くように慎重に言葉を選んで答えを返した。母を傷つけたくはなかった。というのも、それは新たな問題を僕自身が抱えることになるからだ。僕は、母はともかく、母の病気にはこれ以上関わりたくはなかったのだ。

 彼女は母に寄り添うように座って、僕らの会話をぼんやりと聞き入っているようだった。僕は彼女の美しさにドキドキしながらも、どこかで怖さを感じていた。それは彼女の美貌に対してであり。彼女の病気に対してであった。
 彼女は終始無表情ではあったが、そのどこかに僕に対する好意のようなものを感じていた。それは彼女の目の動きや顔の表情や指先の動きに表れているような気がした。自惚れかもしれないが、僕はその事に僅かな優越感のようなものを抱いていた。彼女のような美い人は、僕には縁遠い存在だったからだ。
そして、それは程なく現実のものとなった。非現実な現実となった。

 それは母がトイレに立ち、僕と彼女が二人きりになった時に起こった。
「私、あなたが好き」彼女はいつもの無表情で、そう切り出した。僕はとても狼狽した。それは彼女の病気が言わせているのか、本来、彼女はそういうタイプの女性なのか判断出来なかったからだ。もちろん僕は安全策を取った。「どうも、ありがとう」僕はそう言って彼女から視線を外し、テーブルに置かれたコーヒカップを眺めた。彼女の言葉はそれ以上続かなかった。そして僕もそれ以上の返事は用意していなかった。

 二度目にそれが起った時、僕と彼女は並んで歩いていた。
母との面会を済ませた僕は、バスの停留所に向かっていた。彼女は後から小走りにやってきた。「歩ける?」彼女は僕に追いついて言った。僕はうなずいた。
 病院の敷地内にある緑の芝生を、僕らは並んで歩いた。「良い天気ね」彼女は歩きながら空を見上げた。良く晴れた空から爽やかな風が吹き抜け、彼女の長い髪を揺らしていた。 僕には彼女と話すべきことは何もなかった。僕はただここに来て、そして帰って行くだけなのだ。その気持ちと相反するように僕は彼女と歩いていたかった。妖精のような美女と、ただ歩いていたかったのだ。初夏の陽射しを受けた彼女の横顔は薄っすらと微笑んでいるように見えた。彼女は、ごく普通の女の子だった。実際、そうなのだ。実際、夢みたいに魅力的な女の子だったのだから。

「今夜10時に、この場所で待っている。あなたと星空が見たい」彼女は、それだけ言い残すとスタスタと病棟に戻って行った。


 裏庭に回ると植え込みの陰に人が立っているのが分かった。彼女だ。夏の星座に照らし出された彼女は、この世の者とは思えないほど綺麗だった。僕は彼女の横に寄り添った。
 彼女は僕の顔を見ることもなく、夜空を見上げたまま話し始めた。それは彼女の身の上話と言えるものだった。ここでの生活、病気の具合、家族の事、友人の事、学校の事、将来の夢、そして不安……。彼女の話は途切れる事なく続いていった。やはりそれは一方的で会話と呼べる種類のものではなかった。
 僕はしばらく彼女の話に耳を傾けた後、彼女の話の中には決定的に足りない物がある事が分かった。
 彼女の話には『接続詞』が、まったく含まれていなかった。

 彼女の話は、ふわりと舞い降りるように始まり、次第に熱を帯び、感情の昂ぶりを見せ、やがて沈静し、最後は沈み込むように消えていった。それらが波を打つように繰り返された。だが一つ一つの話には、不可解なほどに関連性が見られなかった。彼女の身体からは無数の糸が振り撒かれるのだが、それらはどれもブツ切れで、そのどれとも繋がってはいなかった。それ故、その話が彼女を理解する為ものにはなりえず、益々、不可解な存在へと導いているのだった。彼女は話せば話ほど、理解を求めれば求めるほど、彼女以外の人間との接続が不可能な状態だった。
 彼女の苦悩や不安や夢は、塵のように飛散するだけで、他の誰とも結び付くことは無かった。それは、とても残酷な事のように思われた。

 長い時間、話し続けた後に、彼女は疲れたように無言になった。僕は、いくらかホッとした気持ちで星空を見上げた。夜空に瞬く星々は恐ろしいほど難解な構文を眺めるように複雑に絡み合っているように見えた。もつれ合っているように見えた。
 気がつくと彼女の顔は、僕の胸の中にあった。

 それから彼女は、初めて僕に意見を求めた。「私の頭の中は壊れてしまったの?」
僕は、その言葉を聞いて胸が熱くなった。
「違うんだ。君は『接続詞』を失くしただけなんだ。君も僕の母さんも『接続詞』を見失っただけなんだ。そして、それはきっと見つかる。いつかきっと見つかる」僕は、僕の胸の中で震えている彼女に、そう言った。でも、それは真実じゃない。真実は、そんなにロマンチックでも夢見心地でもない。彼女はシリアスな病気を抱えているのだ。残酷なほどに彼女の一生を食い尽くそうとしている凶悪な病気をだ。彼女も彼女の家族も、その重みを一生背負い込んで生きていくのだ。僕の母が、そうであるように。

 それでも僕は、それを信じたかった。彼女や僕の母が見失った『接続詞』が、この星空の中に紛れ込んでいる事を。この入り乱れた星屑の中で見失ってしまった事を。
 そしていつか、この星空の混乱が解けた時、それは彼女たちの元へと返されるのだ。

 『そして』



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2011年06月12日

幸福な質問

Waiting for Sun.jpg
The Doors / Waiting For The Sun

 男が部屋に入ってくる。髪や服は乱れ、少し酔っている。
男は乱暴に上着を脱ぎ捨てるとベッドに身体を投げ出す。しばらく呼吸を整えて上半身を起こすと携帯電話を取り出し、しばらくの間、考え込む。

 やがて男は首を振って立ち上がり、携帯を置くとバスルームに向かった。男のいる部屋は標準的なビジネスホテルだった。
シングルベッドに書き物机。ベッド脇には電気スタンドと数枚のメモ用紙、それにボールペンが添えられていた。狭いバスルームに姿見が一枚。小さな窓からは隣のビルの壁しか見えなかった。

 シャワーを浴びた男がベッドに戻ってきた。男は時間を確認する。午後の9時。もう一度、携帯を握りコールを鳴らした。数コールで女が電話に出た。若い女だった。
男は一瞬躊躇する。しかし男は構わず声を発する。「俺だよ。お父さんだ」

 お父さんと名乗る資格がないことを男は充分理解していた。しかし、そう名乗るのが手っ取り早い方法だった。離れて暮らしてはいるが、男が彼女の父なのは間違いのない事だった。
電話口の若い女は声を詰まらせたが、やがて「ああ」と曖昧な返事をした。
「近くまで来ているんだ。お母さんに代わってくれるかい?」男は早口で言った。
「お母さん。今、出かけてる。今日は遅くなるって」若い女は答えた。

 男は少し落胆したが、久しぶりに娘の声が聞けて安心していた。「そうか。じゃあ、また電話するよ。お前の声が聞けて良かったよ」男は電話を切ろうとした。
「あ。近くに来てるって何かあったの?」意外にも娘は話を続けた。離婚してから元妻は、娘と男が二人だけで会話をするのを許さなかった。しかし娘も二十歳を過ぎていた。彼女は自発的に行動を起こせる歳になっていた。

 男は今日の葬儀の話をした。亡くなった親戚は、彼女も何度か顔を合わせていた。「そうなんだ。叔父さん亡くなったんだ」娘は寂しそうな声を出した。妻と別れることで様々な縁が寸断されて行った。男には、それらを引き受ける覚悟があった。男が選んだ道だったからだ。でも娘にはそれを強いることは出来なかった。長い時間をかけて現実を受け入れて貰うしか他に方法がなかった。

「大学はどうだい? 楽しいかい?」男は話を変えて聞いてみた。娘は大学生活の話をしてくれた。男はとても嬉しかった。もう娘と話をすることなど諦めていたからだ。「そうか。頑張れよ。力になれることがあったら言って欲しいんだ。お前にその気持ちがあるのなら」男は娘の話に耳を傾け、娘が安心できる言葉を選んで返した。

 男は元妻の気持ちを考えると、長話をする事は出来なかった。適当な話の切れ目で電話を切ろうとした。
「あ、ちょっと待って。今、ホテルにいるの?」娘は意外な質問を始めた。
「ああ。いるよ」男は答えた。
「今、受話器を持っているのは左手?」娘の質問は続いた。
「そうだ。左手」男は左手に携帯を持っていた。

「じゃあ。右手にペンを持ってる?」
「…そうだ。確かに持ってる」男は驚いた。自分でも気が付かない間にホテルに備え付けのボールペンを握り締めていたからだ。

「そのペンで何か走り書きしているよね? 英語の文字でしょ?」
娘の言葉に間違いなかった。男は無意識のうちにメモ用紙に走り書きをしていた。たぶん昔からそんな癖があったのだと思う。娘とまだ一緒に暮らしている時から。
メモ用紙には簡単な英語の文字が書き込まれていた。大昔に流行ったヒット曲のタイトルだった。娘が産まれる、ずっと前に流行った曲だった。

「そうだ。ここに、なんて書いてるのか、わかるのかい?」今度は男が娘に質問した。
「わかると思うよ。昔、私がお父さんと呼んでいた人だったら、そこには『Hello, I Love You』と書いてる」

 男は唇を震わせて「そうだ。当たりだよ」と答えた。そして、電話を切った後も、ずっと、その言葉をペン先でなぞった。

☆超短編小説会さんの同タイトルに参加したお話です。





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2011年05月29日

ねこ渡船所を夢にみた

Hatfield And The North.jpg
Hatfield and the North

 その夢の始まりに僕は雲の上にいた。渡船所がある場所は厚い雲で覆われていた。
僕は次第に高度を下げて行く。雲の中は湿っていて僕の身体はジットリと濡れ、気持ちが悪くなる。

 ねこ渡船所は埠頭の端っこにあった。海上には水上信号機が設置され、水上交差点では何隻もの船が信号待ちをしている。少し先にある水上ハイウェイでは高速で走る船が切れ間無く続いていた。「ずいぶん賑やかな海だな」と僕は空の上から思う。

 渡船所の駐車場に降り立った。渡船所の地面は体育館マットのようにブヨブヨ柔らかで、僕は足をとられて歩き難い思いをする。渡船所の建物は原色の緑とオレンジで塗りこめられていてケバケバしく感じる。曇り空や荒れた海ともミスマッチで、僕は施工者のセンスを疑う。

 ターミナルは無数の猫たちで、ごった返している。猫たちは身体の一部分だけが他の部分よりも大きく、不恰好に思えた。ある猫は耳だけが大きく、ある猫は片腕だけが大きく、ある猫は片目だけが大きかった。それでも、いずれの猫たちも、それらのハンデキャップに意識的ではないように思えた。と言うより何も考えていないように感じられた。

 改札には尻尾だけが異常に大きな猫が、座っていた。猫の年齢は見た目には分かりにくかったが、かなりの高齢だということが、その話し振りから分かった。

「どこに行く?」改札の猫は僕に向かって話しかけた。僕の右手には「ねこの島」行きの切符が握られているのを、その時、気がついた。「ねこの島に行くみたいです」僕は答えた。
改札猫は見るからに不機嫌そうな顔つきになった。「みたいです。ってどういうことだ? お前の意思で行くわけじゃないのか?」と改札猫は迫ってきた。
「いや。そういう訳じゃなくて、多分、そうなのかな?ってことです」僕は曖昧なことしか言えなかった。ここでは何もかもが曖昧なのだ。

「ばかやろう! ドアホ! 尻の穴! うんこ! クズ!」改札猫は暴言の限りを吐きまくった。僕はオドオドして改札猫の暴言が収まるのを待った。

「なあ青年……」改札猫の暴言モードは収まり、しんみりモードが漂い始めた。僕は分かりやすいオーソドックスな猫だと思った。

「お前に必要なのはな。詰め込んだものを捨てちまうことだ。お前はな、詰め込みすぎてるんだよ」と改札猫は言った。僕はウンウンと機嫌を損ねないように、うなずいた。

「いいか。前に進もうと思うなら。今の自分にサヨナラしたいと思うなら、捨てちまうことが先なんだよ。捨てて捨てて、それでも前に進むなら、どうしても動かせないものが骨のアチコチに、こびりついているのが分かるようになる。生き物にとって必要なモノはそれだけで良いんだよ。それでけで生きて行けるんだよ」
改札猫はそれだけ言うと黙ってゴミ箱を差し出した。ゴミ箱には無数の切符が捨てられていた。僕は雰囲気的に切符を捨てろってことだなと察した。僕はゴミ箱に切符を捨てると改札猫にお礼を言って、そこを立ち去った。

 振り返って改札を見ると改札猫が「バカヤロウ」と次の乗船者に向かって怒鳴っている。多分、あの改札を通れる乗船者はいないのだろうと僕は思う。

 建物を出ると片平なぎさが待っている。断崖に連れて行ってくれると僕に言った。遅れている船越栄一郎の到着を待って、そこに向かう予定だった。僕は待っている間、片平なぎさの白くてプヨプヨしている二の腕を見ていた。「柔らかそうだな」と僕は思った。

 そこで、その夢は終わった。

DODOSUKO3部作(その3)



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やがて夜の雨が訪れる

New Age of Eart.jpg
Ashra / New Age of Earth


 男は玄関のドアを閉めた。まだ夜明け前で、辺りは薄暗かった。
男の手にはボストンバックが一つだけ握られていた。門扉を閉じると表札のプレートを指でなぞった。
 自分の名前と妻の名前。それに二人の子供の名前を指先で読んだ。
それから暫く門の前に呆然と立っていた。これから男が捨てようとしているモノの重みで押し潰されそうになっていた。

 男は何度か携帯で時間を確認した。約束の時間が迫っていた。しかし、そこを離れる事が出来なかった。男は尚も迷っていた。
幾度も幾度も考え続けてきた事だった。男は脳みそが裏返るほど考えた。それでも結論は出なかった。
 男はその場に、うずくまって震え始めた。「やはり、ここを離れることは出来ない」男の心と男の身体は別物のように、その場から動くことが出来なかった。

 その時、匂いが漂ってきた。どこかで嗅いだ事がある匂いだった。その匂いに釣られて男の身体は動き始めた。その匂いのする方向に進み始めたのだ。
雨の匂いだ。

 男は不思議なことに、もうそれ以上は迷わなかった。男は心の中で、ある簡素な言葉の繋がりのようなモノを繰り返し唱えていた。
繰り返し唱えることで、男の足は前へ前へと一歩づつ進んでいった。


  例え、ここに日照りが続き、ギラギラとした太陽が照り付けても、
  例え、ここ風が唸り、カラカラに乾いた砂が舞い上がろうと、
  例え、ここに雪が舞い、シンシンと降る雪に皆の心が締め付けられても、
  やがては、夜の雨が訪れる


DODOSUKO3部作(その2)



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"1・2・3" 三つ数えろ

NEU.jpg
Neu!


 「匂うね」福永は男の後を追って逆方向に歩き出した。
「やめとけよ」俺は福永を止めようと腕を掴んだが、福永はそれを振りほどいて進んだ。

 俺は迷ったが福永の後を追った。
男は見るからにヤバそうな目つきをしていた。脅えたような目だ。男は急いでいた。俺が知っている男の印象はそれだけだ。

 男は急いでいたが、それほど足は速くなかった。時々フラフラとよろめいて人や看板にぶつかりそうになった。
俺は福永の横に追いついた。「あの男は誰だ?」と俺は聞いた。「知らね」と福永は言った。
 男は繁華街で福永とぶつかりそうになった。それから福永は男の後を追った。男と福永の関係で俺が知っているのは、それだけだ。

 男は荒れた地区に足を踏み入れた。だんだんと人が疎らになり、男を尾行するのは簡単になった。俺は嫌な予感がした。
男は雑居ビルが集まる路地裏に入込んだ。風俗店や飲み屋が立ち並ぶ地区だった。ここらは昼間でも冷ややかな空気が立ち込めていた。

 男は路地奥の見るからに荒れ果てた雑居ビルの中に消えた。福永は躊躇せずに男の後を追おうと中に入りかけた。今度は身体を張って福永を止めた。
俺は福永を羽交い絞めにして「どこまで行くんだよ?」と聞いた。「中の様子を見に行く」と福永は平然と言った。
「わかるだろ? どう考えてもヤバイだろ?」と俺が言うと
「行って見なきゃ分からない」と福永は言った。
「俺らは刑事でも行政の人間でもない。一般人だろ。関係ないだろ?」
「どうして関係ない? 自分にとって利益にも不利益にもならない事は関係ないで済ますのか?」
俺は言いよどんだ。福永はストレートな男だった。

「お前の選択肢は2つだ。俺に付いて来るか、ここで引き返すかだ」福永はお前が決めろと俺に決断を迫った。
その時の俺には迷いよりも何か大きな流れのようなものを感じていた。あの場所で福永が男に会った時から。俺と福永が今日会った時から。ずっと昔、俺と福永が知り合った時から。今という時間は決められていたような気がしていた。

 俺はそれ以上躊躇はしなかった。
福永を離すと後を追って雑居ビルの中に入った。階段の踊り場あたりから話し声が聞こえていた。男がもう一人いた。片言の日本語で外国人だと分かった。

「さて、何をやってるのか聞いてみようか」福永は俺に言った。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。福永は俺の肩をポンと叩いて言った。
「行くぞ。相棒。1.2.3。三つ数えろ」

DODOSUKO3部作(その1)



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2011年05月21日

blue.jpg 月.jpg
RC SUCCESSION / BLUE

 夕方、足の爪を切ってたら窓ガラスにコツンと何かが、ぶつかった音がした。
窓から顔を出すと吉村が立っていた。

 ジャージにサンダルをつっかけて、慌てて階段を降りた。
「やあ」僕は吉村に駆け寄って手を上げた。吉村をそれに答えずに片手を突き出した。
吉村の手には小石が五つ握られていた。「1個目で気がついたね」吉村は残念そうに首を振った。
僕は部屋の窓ガラスを見上げて「チャイム鳴らせよ」と言った。

 吉村は「RCサクセションの新しいレコードを聞かせて欲しい」と僕に言った。この前、会った時にそんな約束をしたのを思い出した。
「今、部屋を片付けるから、ちょっと待ってくれ」僕は部屋に駆け戻って、雑誌やゴミを押入れに詰め込んだ。
吉村が…、いや、女の子が部屋に来るのは初めてだった。

 「カーテン無いの?」吉村は部屋に入るなり驚いていた。「うん」僕は答えた。「どうして?」吉村は理解できない顔をしている。
「寸法とか計るの面倒くさいから」と答えた。「面倒かな?」吉村はまだ理解できない様子でカーテンのない窓ガラスの前に立ていた。
僕は彼女を諭すように「ほら、向かいの家の屋根が綺麗に見えるだろ?」と言った。「うん。それが何か?」と吉村はまだ不思議そうにしている。
「いや。見えるよねってこと」僕はそれ以上説明するのが面倒になった。

 吉村は駅前のパン屋で買ったラスクを差し出して「お土産」と言った。僕は礼を言ってラスクを皿の上に広げた。ここのラスクは旨い。我慢できずに1枚頬張った。カリカリして適度に甘くて美味しかった。僕はラスクの欠片をポロポロこぼしながら食べた。吉村は笑ってそれを見ていた。『どうしてそんなに、こぼせるの?』とか言いたげに笑っていた。僕は吉村に笑っていて欲しくて、いつもより余計に、こぼして食べた。

 吉村とは学生の頃に知り合った。仲が良かった。吉村も僕もマイナーな音楽や映画を好んだ。話が合った。だけど、それ以上の間柄には、なれないでいた。女の子はいろんな事を考えてそうで面倒だったからだ。「駆け引き」とか使われたら裸足で逃げ出したかった。
吉村は僕と会っているときに何度か悲しそうな顔をした。僕はどこかで彼女を傷つけているような気がしていた。

 RCのレコードをプレイヤーに乗せて、ジャケットを吉村に手渡した。「コーヒーいれようか?」僕はついでに聞いてみた。吉村は流し台に視線を向けた。台の上にはコーヒーカップが1個乗っていた。中から歯ブラシと歯磨きが顔を出していた。この部屋には飲食用と洗面用の兼用コーヒーカップが1個しかなかった。「ありがとう。でも無理そう」吉村は気の毒そうに断った。

 レコードの再生が始まると吉村は歌詞カードを凝視したまま動かなくなった。自分の好きなことを、やり始めると途端に吉村は周囲が見えなくなった。僕は吉村のそんな所が好きだった。そんな時の吉村は誰にも媚びたり、合わせたり、気を使ったり、自分を良く見せたりしなかった。僕はそんな吉村を脇からそっと眺めているのが好きだった。

 レコードが終わる頃になると辺りの陽は落ちて、すっかり暗くなっていた。カーテンのない窓にはポッカリと月が浮かんでいた。窓の月に気がついた吉村は、その明るさに見入ってしまった。僕が蛍光灯の明かりを消すと、月は益々明るく光り輝いた。

「綺麗だね」吉村は僕のすぐ横に座って言った。僕と吉村はとても近くにいた。手を伸ばせば彼女の髪に触れることが出来た。吉村の長い髪は、月の光に照らし出されて、生き物のように揺れ動いた。

 辺りはシンとして、みんなどっかに旅立ってしまったようだった。ただ月だけが、ここを見守っていた。退屈そうにポカンと空に浮かんで、この部屋を覗いていた。
 僕と吉村を黙って月を眺めていた。
しばらくして、吉村は「コホン」と咳払いをした後「やっぱりカーテンが無いの変だよ」と言った。「そうだね」と僕が言うと「今度、一緒に買いに行こうか」と言った。
「うん」と僕がつぶやくと、吉村は付け加えるように「私のコーヒーカップも買うね」と言った。

 それから僕は吉村を抱き寄せてキスをした。
お月様は、恥ずかしがらずに、それを見ていた。



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2011年05月14日

Please Let Me Wonder

The Warmth of the Sun.jpg
The Beach Boys / The Warmth of the Sun

 うだるような夏日、俺は学生課でアルバイトの求人ファイルを眺めていた。出来るだけ人気のない、出来るだけ人に会わない仕事を求めていた。特に若者に会いたくなかった。
 その日のうちに面接を受け、その日のうちに採用の返事を貰った。
その夏、俺は葬儀社で働く事にした。

 基本的な就労内容は、初盆の飾り付けの補助だった。だが、採用担当者は「もっと早くから勤務出来るか?」と聞いてきた。その夏、俺の予定は一切なかった。「いつからでも、働きたい」と俺は返事をした。「じゃ明日から」担当者は言って、ホッとした表情をした。夏休みに葬儀社でバイトをしたい人間は、そうそういないのだろう。

 人気のない仕事だ。若い女の子の影もない。だから時給は悪くなかった。でも時給なんて、どうでも良かった。俺は無心に働きたかった。そして、その夏がとっとと過ぎ去ってしまう事を望んでいた。

 葬儀社の朝は早かった。俺は早朝6時過ぎに出勤し、すぐに般若心経を読まされた。朝礼が終わるとその日の葬儀の準備に取り掛かった。発注された棺桶を準備し、トラックに積み込んだ。バックヤードには値段ごとに棺桶が並べられていた。「じゃ〜それ積み込んで。それ5万のヤツね」俺はスベスベした棺桶を台車に載せ、布で磨き上げた。花輪や白黒の幕、祭壇を作る機材を積み込んだ。葬儀の準備は、かなりの重労働だ。

 トラックの助手席に乗って、死者の家に向かった。古いトラックにはクーラーが付いていなかった。俺は助手席の窓を開け、ひじを窓枠に乗せて目的地に向かった。強い風が吹き込んで、俺の額に浮かぶ汗を吹き飛ばした。夏の日差しは強烈だったが、その頃の俺は(今から思えば)理不尽なほど若かった。

 葬儀社の社員は陽気な男が多かった。運転席の若い社員は、AMラジオから流れてくる演歌に合わせて、こぶしを震わせて歌い始めた。
 「歩のない将棋は〜♪負け将棋〜〜〜んか♪」
俺はそれを見てハハハと笑った。俺は、ほとんどの社員から可愛がられた。同年代の人間と一緒にいるのは苦痛だったが、年上の人間となら、そうでもなかった。

 俺は無口で無愛想だったが、仕事は手を抜かなかった。会社に残って、同僚の仕事も手伝った。俺は同年代の学生の中でも変わり者だったが、ここに勤務する社員はそれ以上に変わっていた。
 会社を経営していたが、社内クーデターで追い出されてしまった50代の恰幅の良い男。ペニスに真珠を埋め込んだ、SEXだけが生きがいだと語る男。不倫の末、女房子供を捨てて不倫相手と一緒になったが、また違う相手と不倫を始めた懲りない男。異様に無口だが、時々切れて暴れだす危ない目つきをした男。小指が切り取られた男…等々。

 それぞれが重苦しい過去を持っていた。彼らは車の中で、それぞれの過去をあっけらかんと語り、ナハハと笑い飛ばした。俺は助手席で彼らの話を聞き、時々うなずいた。

 祭壇の飾り付けが終わると、布団の上に寝かされた死体を、棺桶の中に移し変えた。それらは遺族によって行われたが、俺はドライアイスを棺桶に敷き詰める作業を手伝った。死体の耳元や首筋付近にドライアイスを敷き入れた。その夏、どれほどの死体を見ただろう。死体を見るのは怖くなかった。生きている人間の方が遥かに怖かった。

 一度だけ、とても美しい女性の死体を見た。まだ若い女性だった。眠っているような傷一つない穏やかな死顔だった。俺は普段より顔を近づけてドライアイスを詰め込んでいった。詰め終わって、顔を上げると妙な気持ちになった。どう言い表したら良いのか分からない。

 俺は辺りを見回してから、もう一度、身体を倒し、その女性の耳たぶを触った。

 バイトが休みの日は、朝早く起き出して、バイクで海岸に向かった。と言っても、あまり目立たない狭い浜辺を持った海岸だ。真夏でも若者の姿は、それほど見当たらなかった。近所に住む子供達と、その母親。それに何故だか老婆の姿が多かった。浜辺に着くと、Tシャツとジーンズを脱ぎ捨て、砂に腰を下ろした。コンビニで買ってきた缶ビールを喉の奥まで流し込んだ。

 それからウォークマンのイヤホンを耳にはめ込み、砂の上に寝転がった。ウォークマンには『The Beach Boys』のカセットが入っていた。その夏は、そのカセットだけを聴いて過ごした。
『Surfin’ U.S.A.』や『Fun, Fun, Fun』なんかの陽気なナンバーは外して、少しウェットなナンバーだけを選んでカセットを作った。
『Don’t Worry Baby』や『In My Room』や『Girls on the Beach』や『Caroline No』とか、そんな感じだ。

 Beach Boysを聴きながら、あまりに青過ぎて距離感のなくなった空を眺めていた。俺は一人ぼっちだったが、寂しくはなかった。俺はそれで良かった。それは俺が選んだ事だ。

 だが、一人では何も変わらない。変えられない事にも気が付いていた。俺は一人の心地良さを求めながら、それとは別の気持ちも抱いていた。つむじ風みたいな強風が吹いて、何もかも変わってしまうのだ。それまでの自分が一瞬で変わってしまう。そんな魔法みたいな出来事を待ち望んでもいた。

 『Please Let Me Wonder』が何よりも好きだった。ブライアン・ウィルソンの弱々しい声で、そう歌われると、心の中のどっかの部位が無意識に反応した。そして少しだけ熱い気持ちになった。
 
 俺は青空に両手をかざし、指の匂いを嗅いだ。その指に染み付いた死者の残滓を嗅ぎ取ろうとした。
 戻る場所を失い、さ迷い続ける匂いを、俺は、どうしても受け取る必要があった。




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2011年05月07日

若葉のころ/眠る鳩

若葉.jpg
若葉のころ ビージーズ作品集

 車を走らせて叔父の家に向かっていた。5月のゴールデンウィークも終わり、町には静けさが戻っていた。
叔父の家を訪れるのは十数年ぶりだった。訪問の目的は少しばかりのお届け物とある人の消息を尋ねるためだった。
 その人は真理子という名で、私は独身時代の数ヶ月を彼女と同じ職場で働いていた。

 今から十数年前、私はそれまで働いていた仕事を辞め、家業を継ぐことになった。実家に戻る前の数ヶ月間、私は叔父の家に寝泊りして仕事の見習いをした。同じように自営だった叔父に営業を教わるためだった。

 真理子さんはそこで事務の手伝いをしていた。真理子さんも体調を壊して、それまで働いていた職場を辞めたばかりだと叔母から聞いた。彼女の母と叔母が知り合いだったようで、週に何日か事務の手伝いを頼んだと聞かされた。

 彼女は綺麗な顔立ちをしていたが、病気明けのためか、ひどく痩せていて、頬がこけ、顔色も悪かった。それでもその清楚で凛とした佇まいに心引かれた。と言っても当時の私はチャラチャラした軽薄な男で別に付き合っている女の子もいた。何度か真理子さんを食事に誘ったがアッサリ断られた。諦めかけた三度目に公園に誘うと意外に簡単にOKが出た。ボートに乗りたいと言うので晴れの日曜日に彼女を誘い出した。

 その日はとても暖かな五月晴れで、私はデート中に関わらず幾度も居眠りをしていた。その公園には比較的大きな池があり、白鳥の形をしたボートやペタルを漕いで進むボートが何艘も池に浮かんでいた。私たちは普通のオールを使うボートに乗った。池は四方を森林に囲まれ、滴るような緑が周囲はもちろん、水面にも映し出されて、深い深い森の奥に浮かんでいるように感じられた。彼女は白いワンピースにつばの広い帽子を被り、典型的なお嬢様スタイルだった。私は古い映画のワンシーンのようだと思った。彼女は片手を水に浸し気持ち良さそうに微笑んでいた。

 その時の私はとても眠くて、睡魔と闘いながら彼女の仕草を目で追っていた。私はウトウトしながら何度か鳩の鳴き声を聞いた。「鳩がいるのかな?」私は辺りを見回して彼女に尋ねた。真理子さんは私に視線を合わせて「いいえ。鳩は寝ています」と言った。

 そんな風にして彼女の眠る鳩の話は始まった。彼女はお婆ちゃん子で二人で鳩の世話をしていた。彼女と祖母はとても穏やかで楽しい日々を過ごしていた。月日が流れ、彼女の祖母は病魔に侵され、やがて帰らぬ人となってしまう。彼女は大変、嘆き悲しんだが、不思議なことに祖母が死んだその日から飼っていた鳩が見当たらなくなっていた。なおさら彼女の悲しみは増して半狂乱になってしまったと言う。しばらくして意外な場所でその鳩を彼女は見つける。それから彼女の気持ちも次第に治まっていったと言う。

「鳩は私の中に眠っていたの。そんな気がするって事じゃないわよ。私の胸の奥から鳩の寝息や羽が擦れる音が聞こえてきたの。そのうち鳩の鼓動も身体の温もりも伝わってきた。きっと御婆さまは私に鳩を託したのよ。そして、その事が、私は生き続けなければならないと気付かせてくれた。多分、その時になって初めて御婆さまの死を受け入れることが出来たんだと思う。私は生きる。そしてその鳩を決して目覚めさせてはいけない」

 日差しは眩しく私は宙に浮かんでいるような錯覚に陥った。彼女の身体は時々透き通って向こう岸の緑に溶け込んでいるように見えた。でも、それは錯覚で、私はとても眠かった。

「私はそれからとても静かに生活することにしたわ。大きな音や激しい揺れを極力避けて生活した。私の鳩が目覚めないように。
 それから私は考えたわ。これは素晴らしいことなんだって。考えてみて。世界中の人の胸に鳩が眠っていたら。この世界のすべての人に無垢な鳩の寝息が聞こえたとしたら、きっと世界は変わると思うの……」

 真理子さんの話で覚えているのは、それが全部だ。私はひどく眠くなって、それ以後の記憶が曖昧になっていた。その日彼女と、どうやって別れ、どうやって自分の部屋に辿り着いたのかも覚えていない。ただ私はその夜から、高熱を出して数日寝込んだことだけは覚えている。

 ほどなく私は実家に戻り家業を継いだ。あの日の後、何度か真理子さんと顔を合わせたと思うが、その時、どんな会話をしたのかまでは覚えていない。不思議なくらい、その辺りの記憶が曖昧になっていた。

 私は叔父や叔母に会って、真理子さんと連絡を取りたかった。もちろん今の私は結婚して子供もいた。彼女に会って私に今起こりつつある事を相談したかったのだ。

 叔父の家は数十年前と少しも変わっていなかった。叔父と叔母は少し歳を取ったが、まだまだ健在だった。私は軽く近況を話し合った後に、真理子さんの話を切り出した。
「一緒に働いてた。マリちゃんって今どこにいるのかな?」
叔父と叔母は不審な顔をして「マリちゃんって誰?」と聞き返してきた。
「何、言ってるんですか、事務の手伝いをしてたじゃないですか。真理子さんですよ。病気の療養中で」私の問いに叔父と叔母は首を振るばかりだった。叔母は堪り兼ねたように「お前が家で働いてるときに事務の手伝いをしてたのは、お前も知ってる従兄弟の明美だったじゃない」と言った。叔父もそうそうと頷いた。

 確かに明美なら子供の頃から良く知っている。昔から体格が良くて明るくサバサバした性格でガハハと豪快に笑う。そんな訳がない。確かにその事務机に髪を束ねた真理子さんが座っていた。青白い顔をして弱々しく微笑んだ。「ちょっと、その時撮った写真持ってくるよ」叔母は母屋へ駆け出して行った。
 当時、明美は仕事を辞めてブラブラしていたので、叔母さんが強引に事務の手伝いをさせたと叔父は説明した。お前と始終ケンカしていて賑やかだったよ。と付け加えた。

 叔母は写真を手にして戻ってきた。写真には20代の私が写っていた。叔父と叔母、それに真ん中で大きな口を開けて笑っているのは確かに明美だ。この家には、小・中学校の時に何度か来ただけで、それから、ここで働いていた時まで一度も来ていない。それ以後も今日まで来ることはなかった。でも間違いなく私は真理子さんとここで会話した。叔父たちと四人で食事もした。私は記憶の足跡を追った。それでも決まって同じ場所に辿り着くだけだった。

 混乱した頭で叔父と叔母に別れを告げ、車をあの日に真理子さんと行った公園まで走らせた。深い緑に囲まれた池のほとりまで来て、私は彼女の気配を感じた。彼女はここに身を潜めているのだ。誰かに近づくと、その人の記憶にソッと忍び込む。そして彼女の鳩を産み付けるのだ。

 不意に爆音とともに花火が打ち上げられた。この公園のグランドでイベントが始まったのだ。ロックバンドが爆音を撒き散らし、大勢の人の歓声が響き渡った。私はその場にうずくまって両耳を塞いで震えていた。私は自分の胸を大切に大切に守った。
 
 私の鳩が目覚めないように。



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2011年05月01日

I Am A Child

Last Time Around.jpg
Buffalo Springfield / Last Time Around

 ジムから戻ると妻のアキコと次女のユリナが昼ごはんを作って待っていた。
土曜日は朝のうちに仕事を切り上げて、午後からゆっくり過ごす。仕事帰りに近所のジムに寄って汗を流す。
ユリナは高校生にもなるが土曜日は家族の日と決めていて彼氏や友達との約束を入れていない。

 お風呂にゆっくり浸かって、3人でお昼ご飯を食べる。炊き立てのご飯とお味噌汁とお漬物と…まあ、そんな感じで質素に済ます。桃や.jpeg
今日のお味噌汁には、しめじとミョウガが入っていた。辛子明太子と桃屋の若摘み葉唐がらしをご飯に乗せてモソモソ食べる。
桃屋の若摘み葉唐がらしが最近の私のブームだ。

 アキコとユリナは、ユリナのバイトの話で盛り上がっている。私はテレビを横目で見ながら会話に入って行けないでいる。
「アヤネとユリナがね。お父さん改造計画を練ってるんだって」アキコが少し気を使って会話を振ってくれた。
「俺、改造したら大変なことになるぞ」私は多少ウケ狙いで話しかけたが、さっぱり、ウケなくて無視された。またテレビに視線を戻して少し凹む。

 もう何年も娘の目を見て会話が出来ない。恥ずかしい。自分は薄汚い中年だと必要以上に意識しているのかもしれない。いつも頭を悩ましているが、どうにもならない。
どうにもならないまま、長女のアヤネは関西の大学に旅立ってしまった。
 私が悩んでいるのを知ってかアキコが「二人ともお父さんを尊敬してるって言ってたよ」と嬉しいことを言ってくれる。私はもう少し詳しいことが聞きたい。掘り下げて検証したい。私は次の言葉を待つがアキコの話しには一貫性がなく、あっちこっちに飛んで行って、もう戻って来なかった。

 食後、自分の部屋でぼんやりCDを聞いてると、関西にいるはずのアヤネの声が聞こえた。慌ててリビングに顔を出すと、アキコとユリナがパソコンのスカイプでアヤネと話をしている。「ああ、スカイプか」私はパソコンの中のアヤネをチラ見する。元気そうだ。

「ああ、お父さん、アヤネがね。プリンタの印刷が出来ないんだって」とアキコが私の顔見るなり言った。
 おお。私の出番だ。私はこの方面でのみ存在感を示せる。「ああ、どいて。どいて」私は急に偉そうになる。私がアヤネに設定を教えていると、アキコとユリナは部屋を出て、どっかに行ってしまった。

 印刷の設定は簡単に済んだ。私は印刷が出来るか確認して「じゃあな」と言ってスカイプを切ろうとした。すると「ああ、お父さん」とアヤネが止めた。
 それからアヤネは「お父さん、ありがとう」と言った。私は一瞬言葉が出なくなる。娘にいろんなことを伝えたかった。でも私が伝えることなどに何の価値があろう。すべては娘が経験して学んで行くことだ。
「お前の好きなことを思い切ってやりなさい。お父さんとお母さんは、それが一番嬉しいよ」私はそれだけ言ってスカイプを切った。

 ソファに寝転んでいるとアキコが戻ってきて「アヤネと何か話せた?」と聞いてきた。私は「別に」と答る。アキコは見下すように「ほんとに子供ね」と吐き捨てて、またどこかに行ってしまった。

 私はソファに寝転んでリビングに差し込む午後の柔らかな日差しを浴びている。窓から差し込む日差しは黄色いカーテンで大部分が遮られていた。それでも、幾らかの光がカーテンを通り越して私に届いている。多くの物事は、そんな感じで、幾らか届いているものだ。
 届いているのだと思う。



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2011年04月17日

ロケットマン

kate.jpg

 イーライがどこで産まれ、どこで育ち、どこに暮らしているのか私は知らなかった。私が彼女について知っているのは、イーライがロケットを探しているという事だけだった。

 イーライが私に近づいてきたのは、デパートの家具売り場だった。私は椅子を探していた。彼女は目の覚めるような真っ赤なスーツを着て長い髪を無造作に束ねていた。褐色の肌に黒い瞳。顔はノーメイクに近く、手にはエドガー・アラン・ポーの詩集だけを持っていた。彼女のエキセントリックさは、その強い眼差しに滲み出ていた。イーライは私に近づくなり「あなたの探しているものを私は知っているわ」と笑みを浮かべた。どうやら椅子を選んでくれるようだ。私は彼女を不審に思うより興味を持った。彼女は魅力的で、その種の不思議な雰囲気を持った女性に、従来から私は引き寄せられた。彼女は自分はイーライだと名乗った。そして「私の探しているものを、あなたは知っている」と私の瞳を覗き込むようにして言った。

 イーライは彼女の選んだ白い椅子と一緒に私のアパートにやってきた。リビングの窓の下に置かれた白い椅子に彼女は腰を下ろした。彼女はエドガー・アラン・ポーの詩集から「The Raven」を読んだ。時に声を上げ、時には無言だった。私は益々彼女に引き寄せられた。
彼女はどんな女性なのだろう? 私はそれを知りたかった。

 イーライは私が勧めた飲み物や食事を、ことごとく断った。彼女はただそこに座っているだけだった。私は幾つかの質問を彼女に投げかけたが、彼女は決してそれらの質問に答えなかった。彼女はポーの詩に登場する大鴉のように「Nevermore」と口にするだけだった。

 翌朝、私が目を覚まし、寝室から起き上がって来ても、彼女は椅子に座ったままだった。私は少し不審に思い始めたが、彼女が何を持ち出すわけでもなく、もう少し様子を見ることにした。私は少しの疑念を抱えながらも、彼女を部屋に残したまま外出した。

 その夜、部屋に戻ると私は唖然とした。部屋中の引き出しやタンスが引っ掻き回されていた。明らかに何かを物色した後だった。それでもイーライは平然と椅子に座っていた。私はイーライに詰め寄り、激しい口調で問いただした。「何が目的だ?」「どうして私に近づいた?」。しかし、どんな問いにも彼女は答えなかった。

 私は彼女を追い出すべきか迷った。当然そうするべきだった。しかし、私はまだ彼女に未練があった。今夜一晩あれば、何かを聞き出すことが出来るかもしれない。私はなんとか自分を納得させた。

 その夜は、寝室には行かず、彼女に向かい合った。しかし、どんなに夜が更けてもイーライは何も話さなかった。私は明け方になって、うとうとと眠りに落ちた。

 私は息苦しさに目を覚ました。イーライが私の首を絞めていたからだった。ただ、あまりにも彼女の力は弱かった。私は片手で彼女の身体を払い退けた。彼女の身体は風船のように軽かった。私は彼女に詰め寄り、部屋から追い出そうとした。
「どこにロケットを隠してる?」イーライは大声を上げた。「私は還れないのだ! ロケットがないと還れない」彼女は意味の分からない事をわめき散らした。私はこの女を部屋に入れたことを後悔しながら、彼女を戸口まで引き摺った。「お願いだ! 私をおまえのロケットに乗せてくれ! お願いだ」イーライは泣き叫んだ。

 外は雨が降っていた。私はイーライを戸外に放り投げ、ポーの詩集を彼女に向かって投げつけた。彼女は尚も泣き叫んでいた。私は窓からイーライの哀れな姿をしばらく眺めた後、ブラインドを降ろしてベッドに入った。

 翌朝、アパート付近を調べて回ったがイーライの姿はなかった。私は部屋に戻り、トイレに入って用を足した。タンクのレバーを引いて水を流した。もう少し力を入れてレバーを引くとレバーは一回転して隠し扉が開いた。小さな扉を背をかがめて通り抜けると発射台までの通路に出た。私はそこを歩きながら宇宙服に身を包んでいく。私はタラップを駆け上がる。ロケットの操縦席に乗り込むと一息ついて計器をチェックする。「このロケットは私だけのものだ」私はつぶやく。

 発射のボタンを押すと誰かがロケットの窓を叩いている。多分、大鴉がクチバシ使って叩いているのだ。私はそう思う。大鴉は羽ばたきをしながら大声で鳴き叫んでいる。その声はまるで女の泣き声のようだった。

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2011年04月10日

プレーンオムレツほどの幸福

Bob Acri.jpgオムレツ.jpg

「プレーンオムレツは作れますか?」と彼は聞いてきた。
俺は「うちはプレーンオムレツは扱ってないよ」と返事をした。彼は少し残念そうな顔をした。
「プレーンオムレツくらい家で作れば、いいじゃないか」と俺が言うと、彼は「そんなんじゃないんです」と言った。

 4月になって忙しい時期が近づいてきた。毎年この時期にバイトの募集をかける。今年は集まりが良かった。30件ほど問い合わせがあって、そのうち15人ほど面接した。

 彼は2日目の午後にやってきた。近所の大学の2年で柔道部だと言った。大きな身体をして垢抜けない顔をしていた。でも話してみると意外なほど良く喋った。俺は彼の屈託のない笑顔や真っ直ぐな視線に、次第に引き込まれていった。

「お父さんが自営で、最近、仕事がないんです。僕の奨学金使い込まれちゃって」と彼はいかにも楽しそうに言った。
「えー、それ大変じゃん」と言うと「そうなんですけど、仕方がないじゃないですか」と彼はまた楽しそうに言った。
俺も釣られて微笑みながら「そりゃ仕方ないけどね」と言った。

 それから彼はバイト代で、なんとかやり繰りしている様子を克明に喋った。かなり細かく話した。何百何十何円の何円単位まで話した。俺は彼の大柄な体格に似合わぬ几帳面さに舌を巻いた。彼は貧乏だったが、そこには従来型のウェット感が皆無だった。彼は自分の生活の克明な青写真を広げ、様々なアィデアで果敢に現状に挑戦する姿を嬉々として語った。家庭環境の不遇を嘆く姿は、少しも見当たらなかった。実際、そんなモノを嘆いても何も変わりはしなかった。

 彼の饒舌な語りの中でプレーンオムレツは唐突に登場した。
「プレーンオムレツならファミレスのバイトが良いんじゃない?」と俺は提案してみた。
「まあ、そうですね」
「どうしてプレーンオムレツ?」と俺は聞いてみた。
「いや。良いじゃないですかプレーンオムレツ」と彼は言った。
「まあ良いけどね。自分で作って食えよ」と言うと「いや、そうじゃなくてプレーンオムレツ食べて貰いたいじゃないですか」と言った。

 話が済んで彼が帰ると直ぐに女房がサンドイッチの入った袋を提げて飛んできた。目を真っ赤にしている。隣で伝票整理をしながら話を聞いていたようだ。「これ、プレーンオムレツじゃないけど渡して」と女房は袋を差し出した。

 俺は自転車に乗ろうとしている彼を呼び止めてサンドイッチを手渡した。彼は驚いて何度も何度もお礼をした。俺は「女房が食えってよ。俺は知らないけど」と言ったが、今年はコイツを採用することに決めていた。

 彼が帰った後、女房に「いいんじゃない?」と聞くと「いいと思うよ」と女房が言ったので話は決まった。

 幸せの単位をプレーンオムレツで表す事を少し考えてみた。「1プレーンオムレツ」だとか「200プレーンオムレツ」だとか。どんなに幸せでもプレーンオムレツに変わりは無いのだ。それでも朝起きた時に四つもプレーンオムレツが並んでいたら、ものすごく幸せに感じるのではないかと思ったりした。

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2011年04月09日

こんな夜に

soultrane.jpg

 月が出ていた。慌しかった時期が終わり、切りのついた夜だった。
ハム屋の屋台に寄ろうと思った。一区切りがつくと決まって、そこに顔を出していた。

 ハム屋の屋台はとても分かり難い場所にあった。とても人に説明など出来ない。
私はフラフラと、さ迷うように路地から路地を渡り歩いた。それは、ガード付近の小さな公園の横にあった。
とても小さな小さな公園で誰からも忘れ去られたような存在だった。

 ハム屋の屋台は、様々な種類のハムやソーセージが所狭しと並べられ、吊り下げられてあった。明るいライトに照らされた、それらのハムは宝石箱のように光り輝いて見えた。
ハム屋の店主は背の低い痩せた男だった。白いエプロンに丈の長いコック帽を被っていた。眉が薄く、鼻は獅子鼻で、少し前歯が出ていた。鼻の下に細長く髭をたくわえていた。
 猫背気味で、笑うと魔法使いのように見えた。

「いらっしゃい」ハム屋は歯茎をむき出して微笑んだ。この屋台で私の他に客の姿を見たことがない。その夜も私ひとりだった。
「久しぶり。ウィスキー貰おうか」私は椅子に腰掛けて背伸びをした。店主はEarly Timesをグラスに注いだ。
私はグラスを受け取ると、店主に軽く会釈して、その液体を流し入れた。

 店主はスライスしたてのサラミソーセージの皿を差し出した。「ハンガリーサラミです」店主は自信ありげに一言添えた。
まろやかでピリッとしたスパイスが効いた良いソーセージだった。「うまい」。私は感嘆の声を上げた。

 ハム屋の屋台は長く大きな河の流れを眺めるように、ゆっくりとゆっくりと時間が流れて行くように感じられた。
私は時々目を閉じて、時の渦を浮遊するように、その大きな流れに身を任せた。
 私は大きなため息をついた。ため息は私の口からこぼれると球体のガラス玉になってカウンターの上に落ちた。
その日の、ため息玉は青味がかった緑色をしていた。私はそのため息玉を手にとって、しばらく眺めた後、店主に差し出して「また捨ててくれないか」と依頼した。

 店主は顔をしかめて「あいにく今日はもう一杯なんです」と屋台の横に置いてある大きなゴミ箱を指差した。ゴミ箱には、蓋が閉まりきれないほど、色とりどりのため息玉が詰め込んであった。
「旦那さん。たまには奥さんに処分して貰いなさいよ」店主はニヤニヤ微笑んで言った。

 私は愚痴や弱音を妻には見せないように心がけていた。それが信念だとか男気だとか、そうゆうのではなくて、そういうモノを妻に見せるのが忍びなかった。本当につまらないモノだったからだ。

「奥さんもね。少しは待ってるものなんですよ。そうゆうモノであれ」店主はまだニヤニヤしていた。
「そんなもんかね」私は店主に言われるまま、ため息玉をポケットに入れた。

「そうそう。夫婦なんてものはね。おかしなものなんですよ。だって、おかしいじゃないですか、実際」店主は皿をキュキュと磨きながら話し続けた。

「おかしいかな?」私はサラミを頬張る。
「おかしいね」店主は手を止めて月を見上げた。そして「こんな夜は、特にね」と付け加えた。

 私も釣られて月を見上げる「こんな夜なら…仕様がないか」
一瞬だけ妻の顔がよぎった。見慣れた顔だ。だが、こんな夜なら、そうでもない。

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2011年03月27日

さくら雨

sakura.jpeg

 横に並ぶと先生は、ずいぶん小柄に感じてオレは少し驚いた。雨上がりの路面は夕陽を映してキラキラと光っていた。先生の自転車カゴにはスーパーの買い物袋が乗せてあった。先生はその袋に手を差し入れて、オレンジを一つ取り出した。それをオレに手渡した時、細くて白い指先がオレの手の平に触れた。
 そこは住宅地を降りる坂道で、赤茶けた古い自動販売機のそばだった。立ち並ぶ建物の狭間に小さな港町が見えていた。オレの産まれた街だ。
 先生はオレの顔を覗き込んで「まだ早過ぎた」と言った。

 先生は去年の春に赴任してきた。オレのクラスの副担任になった。初めての経験だと震える声で言った。先生はずっと緊張しているようだった。何度も指先が震えるのを見た。それは1年が終わる頃になっても、あまり変わらなかった。先生はこのクラスというより社会そのものに馴染めないでいるように見えた。職員室の中にポツンと一人取り残された先生を何度か目にした。

 クラスの何人かの女の子が、それを察して手を差し伸べていた。オレも先生の痛々しさが目に余って、人目のない場所で何度か声をかけた。「大丈夫よ」と先生は大きな声をだした。そして心底ホッとしたような笑顔を見せた。

 進路指導はクラスの担任によって行われた。先生は担任に後ろの机に座って、その話を聞いていた。オレは担任の話を聞きながら先生と目が合った。先生は目を逸らさずオレを見つめていた。オレには担任の話は届かず、先生の視線だけが伝わっていた。 

 受験が終わりオレは都心の大学に行くために上京することになった。先生がオレに声をかけたのはスーパーの駐車場だった。先生の自転車には買い物袋が乗っていた。オレは母親の使いで買い物袋をぶら下げていた。
 先生と途中まで一緒に帰った。先生は自転車をおして、オレの横に並んだ。「恥ずかしいでしょ?」と先生は言った。オレは「いや。別に」と言ったが、本当は恥ずかしかった。

 卒業も終わり、オレは上京の準備を始めていた。先生は「時々声をかけてくれて助かった」とオレに言った。オレは「あまり思い詰めない方が良いよ」と言った。先生はうんと頷いた。それから話が続かなくなった。古い自動販売機のそばまで来た時、先生は思い出したように立ち止まってオレンジをオレに差し出した。そしてオレの顔を覗き込んで「まだ早過ぎた」と言った。

「ここから桜の木が見えるのよ。ここから見ると綺麗なんだ」先生はオレの顔の先にある公園の方向を指差した。そこは建物の切れ間になっていて、坂の下にある公園の桜並木が良く見えた。まだ3月で桜は咲いていなかった。先生はとても残念そうに桜の木を眺めていた。オレは先生の長いまつ毛や白いブラウスに目を奪われていた。

 上京後のオレは忙しかった。引越しやサークル、慣れない授業、新しいバイト。目まぐるしい日々が続いた。新しい友人が出来た。女の子と何度か遊びに行ったりした。それでも時々、先生の事を思い出した。
 イメージの中の先生は、花のない桜の木の前に立って、その木を一心に見つめていた。雨が降っていて先生の白いブラウスはグッショリと濡れていた。オレは後ろから先生の顔を覗き込むと、先生には顔がなかった。目と鼻と口のある場所には雨の雫が流れ落ちているだけだった。いつも同じイメージが沸いて来た。何度、卒業写真を見返してもイメージの中に先生の顔は戻らなかった。先生の表情は失われたままだった。

 いつか桜の咲く時期に、あの場所で先生に会えるのではないかと思い始めた。会って何を話せば良いのかオレには分からなかった。ただオレは心のどこかで、それを望んでいるように思えた。それがどんな思いなのか確かめたくもあった。

 春になってオレは友人より遅く帰省した。列車の窓から色づいてきた桜が見えた。実家から自転車に乗って、あの坂道に来てみた。誰もいなかった。オレは一人でそこから桜を眺めた。確かに綺麗な景色だった。でも、どうしてこの場所なのかは分からなかった。そこから見える桜は、あまりにも控えめで、ある意味、弱弱しかった。オレは桜を眺めながら先生を思った。震える指先や表情のない顔を思った。

 帰省して3日目の朝、雨が降った。オレは急いで自転車に乗った。坂の上まで来ると先生が傘をさして立っているのが見えた。オレは呼吸を整えて先生に近づいた。声をかけても先生は特に驚かなかった。「雨の日に、ここから見える桜が好きなんだ」
オレは先生の言葉に促されて坂下の桜を見下ろした。それは声を上げるほど綺麗な景色だった。昨日までの弱弱しさから一転して、生き生きとした力強さに溢れていた。雨は、桜の持つ本当の強さをあらわにしているようだった。「下まで歩こうか」先生は先に立って歩き出した。オレは自転車をおして、横に並んだ。話らしい話はなかった。けれど、言葉にはならない強い繋がりのようなモノをオレは感じていた。オレはこの人を愛しているのではないかと、その時、分かった。

 公園に着くと満開の桜が雨に打たれていた。やわらかな風が吹いて、雨粒がオレの頬を濡らした。オレは今、気がついた思いを伝えたくて、その人を呼び止めた。「先生」
 先生は、笑顔で振り返って、こう言った。「先生は、もう卒業しようか。ユリコでいいよ」

 空から桜の雨が落ちてきた。それは誰を濡らすのだろう?
愛というモノがどんなモノなのか、オレには分からなかった。それがどんな力を持ち、どんな優しさや癒しや強さを持つモノなのか。

 ただ、もしそれが雨に似たモノであるのならば、この地に生き続ける限り、それに濡れていたい。それに包まれていたいと、その時、思った。

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2011年03月06日

Up On The Roof

James Taylor.jpg

 屋根の上で、よく寝ていた。天気の良い休日の午前中なら、いつも。それはまだ中学生の頃だった。
そのころ住んでいた自宅は汚いドブ川に面していて、その先には木工所があった。休日なら誰の視線も気にすることなく、好きなだけ寝転んでいられた。

 日曜日。母さんが掃除機を抱えて、決まって2階の部屋に乗り込んできた。眠っている俺をボディスラムで覚醒させると、雪崩式ブレーンバスターで豪快に屋根の上に投げ飛ばした。
その後、布団と枕が飛んできた。俺は屋根の上で寝床をセットして、しつこく眠ろうとした。部屋の中では母さんが蝶のように舞ながら掃除機をかけている。スピニング・トーホールドを決めるドリー・ファンク・ジュニアとテリー・ファンクみたいだった。俺は押入れに隠したエロ本が見つからないように祈ったりした。

 屋根の上から見える景色は決まっていた。少し先にある国道に面したカラオケボックス。ドブ川に沿った雑草だらけの遊歩道。フクイワタの寂れた看板。木工所の赤茶けた屋根。独居老人の住む荒れた一軒家。会社社長の愛人が囲われてると噂されてた三角形の小さな家。なんだか威圧的に見えた、それらを取り囲む山。青かったり白かったり黒かったりで忙しない空。イライラするほど張り巡らされた電線。口うるさい雀。

 午後からはイカ山と遊んだ。イカ山は諌山だったが、いつからかイカ山と呼ばれていた。山の中腹にある神社にスケボーを乗りに行ったり、笹竹を竿にしてハエを釣りに行ったりした。立ち入り禁止の古墳に入り込んで教育委員会に呼び出されたりした。線路脇でブルースリーの真似をして鉄パイプを振り回してたら列車が急停車したりした。イカ山の耳元で爆竹を鳴らしてイカ山の鼓膜を破ったりした。その後、イカ山の母さんから泣くほど怒られた。それでも俺たちは親友だった。

 ある日。その日はやっぱり日曜日の午後だった。俺はイカ山の家にヤツを誘いにいった。玄関に出てきたイカ山は妙にイソイソしくて「今日は用事があるから遊べない」と言った。俺は驚いたり落胆したりしたりしてイカ山の家を出た。俺たちはいつも一緒だったのだ。「何があったのかな?」俺は混乱しながら自転車に乗った。途中で同じクラスの内川さんを見かけた。髪の長い女の子だった。内川さんは俺を見て少し驚いた顔をした。それから小さくお辞儀して路地へと曲がって行った。角を曲がるとき内川さんの髪がフワッと宙に舞った。俺はそれを見てドキッとした。

 家に戻ってインスタントラーメンを食べてから、また屋根の上で昼寝した。内川さんの舞い上がる髪が頭から離れなかった。3時過ぎにイカ山が部屋にやってきた。俺はスネて無愛想を装ったけど、本当は凄く嬉しかった。イカ山は『ミュージックライフ』を貸してくれた。俺の読みたかった雑誌だった。俺はすぐに機嫌を直して、イカ山と並んで屋根の上に座った。
 その日のイカ山はソワソワして落ち着きがなかった。何度か躊躇った後、恥ずかしそうに切り出した。「俺な内川と付き合うことにしたんだ」
俺は眩暈がするほど驚いた。確かにイカ山は目のクリクリしたカワイイ顔をしていた。俺はと言えば体育館シューズの底みたいな酷い顔だった。女の子と付き合うどころか話す事も出来なかった。

「だから休みは、あんまり遊べなくなった。ごめんな。悪いから家に来なくて良いよ」イカ山は本当に済まなそうに告げた。俺は今にも泣き出しそうだった。「うん。分かった」俺はそれだけ言うのが精一杯だった。「じゃあ。悪いけど」イカ山はオロオロして、どうして良いか分からないみたいだった。俺は思い当たって聞いてみた。「待たせてるのか?」
イカ山は「うん」と頷いて、こう言った。「内川から言われたんだ。ちゃんと話に行けって」
 みんな優しいのだ。内川さんも俺たちのことを思いやってくれてるのが分かった。でも俺みたいなクズには「優しさ」は凶器でしかなかった。俺はズタズタに傷ついた。

 イカ山が帰った後も屋根の上に寝転んで、目を閉じていた。イカ山と内川さんが並んで自転車に乗っている姿を見たら、目がつぶれそうだった。俺は屋根の上で身動きが出来ないでいた。降り注ぐ午後の日差しも、吹き抜ける心地よい春風も俺の心までは届かなかった。俺は健康サンダルの裏底みたいな酷い顔をさらに歪めて、この青空の下に晒していた。

 夕暮れが近づくと少し寒くなってきた。俺は部屋に戻らず、屋根の上にいた。座って色々な事を考えた。頭の中に散らかった様々な事柄を整理して、一つ一つ、あるべき場所に収めていった。イカ山と内川さんを俺の手の届かない引き出しに仕舞うと、俺は少し楽になった。

 黄昏れる町並みは、いつもとは違って目に映った。俺は色々な物を見落としていたのだ。本当なら、どこかで目にしていたことを、見落としていたのだ。
その日の屋根から見える景色は、いつもと同じ景色なのに、いつもの同じ俺なのに、とても綺麗に見えた。

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2011年02月20日

彼女が電気コタツで待っている

窓の外は雪.jpg

 帰宅した僕の買い物袋には、豆腐が一丁だけ入っていた。
「金、持ってなくて、これしか買えなかった。もう一回行って来るよ」

「何でもいいよ。ご飯炊いたし」彼女は風呂上りでドライヤーで髪を乾かしていた。

「ごめん。すぐ用意するから」僕は鍋を探した。二つある鍋は流し台の中に突っ込まれていた。一つはインスタントラーメンの汁が、もう一つにはカレールーがしっかりと、こびり付いていた。二つの鍋を諦めて、実家の母が送ってくれた大型の鍋をレンジに乗せた。たっぷりと水を張ってから、火を付けた。湯豆腐しか頭に浮かばなかった。

 彼女は電気コタツに座って待っていた。大きな鍋をコタツの上に乗せると他には何も乗らなかった。「豪快」と彼女は目を回した。
お湯の中に浮いた豆腐を箸で四つに切り分けた。そのうち二つを彼女の座っている方向にパスした。フワフワと豆腐はお湯の中を泳いで、彼女の箸にキャッチされた。

 醤油を垂らした小皿に豆腐を浸して、ご飯の上に乗せた。「いただき」彼女は微笑んで豆腐を口の中に放り込んだ。僕は彼女の仕草に見とれながら、哀しい気持ちになった。それが、いつか壊れそうで、哀しい気持ちにさせた。

 大なべは大きな湯気を立てた。モワモワと太くて濃い湯気が立った。「暖かいね」彼女は言った。「暖かいですね」僕は答えた後、少し寒気がした。コタツの中の二人を取り巻く、冷たい現実を思って寒気がした。

 コタツの中の彼女の足が僕の膝に触れた。その感触がとてもリアルで、僕はそのリアルさに打ちのめされる思いがした。
 
 鍋を片付けた後、とんねるずのテレビを見た。彼女はコタツに寝転んでウトウトしだした。疲れているのだろう。お互いに仕事の話は一切しなかった。僕と彼女は同じ大学を卒業したが僕だけ就職が決まらなかった。

 テレビがニュース番組に変わって今夜は雪だと告げた。寝転んでいた彼女が跳ね起きた。僕らは窓に近寄って、並んでカーテンを開いた。やっぱり雪だった。
僕らは一緒に何度目かの初雪を見た。僕らは何年間か一緒に初雪を見たのだ。僕は彼女の肩を抱いた。雪は窓ガラスに当たってカサカサと小さな音を立てた。小さすぎて誰にも気がついてもらえないほどの音を。

「来年も一緒に見ようよ」彼女は僕に微笑んでから、寒そうに身体を震わせてコタツに戻った。
僕は彼女からそう言われて自分を責めた。まだ彼女の両親に会いに行くことが出来なかった。

 彼女がコタツで待っている。
僕は彼女を待たせたまま、降りしきる雪を眺めていた。

posted by sand at 11:33| Comment(0) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月13日

Knife

Aztec Camera - Knife.jpg

 今日も雨だった。
昨日も。一昨日も。思い出す限り雨が降り続いていた。
私の頭は、ひどく痛んだ。大箱に詰まった鎮痛剤に引っ切り無しに手を伸ばした。それでも痛みは引かなかった。私は何度も仕事を中断して、リビングのソファに倒れこんだ。

 すべて雨のせいだ。
私は雨にすべての罪を負わせようと試みたが、それも徒労に終わった。そう思えば思うほど、私の気持ちは沈んでいった。沈んだ気持ちは新たな頭痛を呼び、それはまた降り続く雨への呪いを生んだ。雨を責める気持ちは、私の心を萎えさせた。そしてその先には頭痛が待ち構えていた。

 私はそれを繰り返していた。環状線の電車に乗っている気分だった。いつ始まったことだろう? 多分ずっと昔。ずっと昔から、そうだった。

 思いつく限り、私は外出していなかった。私は長い間、自宅で仕事をしていた。誰とも会わず、誰とも話さず、誰にも触れず。
いくつかの宅配サービスが私を支えていた。そして彼女の存在も、その一つだった。

 その日の午後になって、部屋の壁に、ほつれ目を見つけた。最初は壁に糸くずが付着しているのだと思った。近づいて見ると、その糸くずは壁から離れた場所にあることが分かった。その糸は浮かんでいたのだ。

 私は深く考えずに、その糸を引いてみた。糸はスルスルと引き上げられ、その空間に裂け目が出来た。私は40〜50cm引いたところで糸を離した。離された糸は裂け目の終わりに、だらしなく垂れ下がった。

 私は不安な気持ちで、その裂け目を眺めた。しばらく眺め続けた。何も起きなかった。私は恐る恐る裂け目に指先を近づけた。裂け目には湿った感触があった。私は反射的に指を引き、その場を離れた。

 彼女が来たのは、夜も遅くなってからだった。私は玄関先で彼女の濡れたコートを脱ぐのを手伝った。「いつまで続くんだろうね。この雨は?」私が忌々しげにそう言うと、彼女は「あなた次第じゃないの?」と素っ気無く答えた。

 キッチンで新しい仕事を彼女から受け取った。その後、二人でビーフシチューを食べた。彼女はあまり話さなかった。この部屋に来る度に彼女の言葉が減って行くのが分かっていた。無言の空間にスプーンと皿がカチッカチッと音を立てた。その音は私を孤独にした。多分、彼女の孤独もそこにあった。
 
 彼女は、リビングでCDを鳴らした。Aztec Cameraの『Knife』という曲だった。彼女はいつも同じ曲をかけた。誰かが空をナイフで切り裂いて、そこから雨が溢れ出す。そんな曲だった。

 明け方近く、私と彼女は眠りについた。物音に目を覚ますと、彼女は午後に見つけた裂け目の前に立っていた。彼女は裸で、横で燃えるファンヒーターが、赤く背中を照らしていた。彼女の背中を見つめていると、彼女が私をもう必要としていないことが分かった。
 私はそれに傷ついていたが、同時に彼女を気の毒にも思った。

 彼女は裂け目に向かって手を伸ばした。「大丈夫かい?」私は小さく声をかけた。彼女は無言で首を縦に振った。彼女の指先は裂け目の淵を何度か行き来して、ゆっくりと裂け目の中に入った。

「冷たい」と彼女は言った。それからもう一言付け加えた。「この空間は死んでる」

 翌日。彼女が部屋を出た後、その裂け目は消えていた。多分、彼女もここには来ないのだろう。なんとなく、それが分かった。

今日も雨だった。私は窓を開けて、雨空を仰いだ。誰かが、そのナイフで、この空を傷つけたのだ。そして、その空間は死んでいる。
 それは悲しいことでも、辛いことでもなく。ただ雨を降らすだけなのだ。

posted by sand at 14:43| Comment(4) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月25日

マンモスが食べたい


First Picture of You

First Picture of You

  • アーティスト: Lotus Eaters
  • 出版社/メーカー: Vinyl Japan
  • 発売日: 1998/03/13
  • メディア: CD



★約2年ぶりの超短小説会さんへの投稿です。マイペースで続けて行きたいです。これからもずっと。

 「マンモスが食べたい」袴田君は最後にそう言った。それを最後に彼は消えてしまった。あれから5年になる。5年という隔たりは、世界中に様々な変化をもたらした。望むものも、望まぬものも…。

 狂ったような猛暑の終わりに、彼女は僕に別れを告げた。不意のことだった。予期する事ができなかった。僕はとても無用心に無関心に、その夏を過ごしていた事になる。
「どうして? 何故?」僕は自分自身に、そして彼女に問いかけた。彼女から明確な答えはなかった。答えとは常に漠然としていて、屋根裏に降り積もった埃のようだ。僕はその存在を見落とし続けた。やがてそれは宙を舞い、僕を泣かせた。

 9月になると朝夕は肌寒くなった。僕は会社帰りに夜の街をさ迷っていた。僕はとても孤独で、滑稽なほど落ち込んでいた。ビルの影に切り取られた、月明かりを眺めながら、僕は行き場所を探していた。僕はどこで行き先を見失ってしまったのか、繰り返し繰り返し考え続けた。

 彼女と別れてから僕は頻繁に袴田君を思い出した。彼はどこにいるんだろう? マンモスには会えたのか? 僕は自分自身の行き先を探すように、彼の居場所を捜し求めていた。

 5年前。袴田君とは、ある店舗の出店計画で共に仕事をした。会社は違ったが、彼とは相性が良かった。二人ともそれぞれの会社のやり方に不満を持っているのも僕らを身近にした。とは言っても、僕らが仕事以外の話をしたのは一度きりだった。

 その仕事も山を越え、終わりを迎えようとしていた頃、僕は袴田君と昼食を共にした。彼は僕より二つか三つ年下だったと思う。彼はとても痩せていて、長い手足を窮屈そうにして椅子に腰掛けていた。
 「今の会社辞めようと思うんですよ」昼食の後に僕は切り出した。袴田君は深く頷いていた。彼にも思うところがあるようだ。「袴田さんは? 続けるんですか?」
彼は首を横に振った。「この業界?」僕は聞いてみた。

 袴田君はもう一度首を横に振って答えた。「僕は違う世界に進みますよ。こことは違う世界です」袴田君は目をキラキラと輝かせて、さらにもう一言付け加えた。
「僕はですね。僕はマンモスを食べるんですよ」
僕は彼の言葉を聞いて呆気にとられたが、すぐにそれはジョークだと解釈した。
「やっぱり塩焼きですかね?」僕は笑って返した。彼は下を向いて嬉しそうに微笑んだ。

 その日を境に袴田君と会う事はなかった。しばらくして僕は異業種に転職し、彼との接点はなくなった。それでも僕は袴田君の不思議な言葉が忘れられなかった。その言葉を口にした時の輝く瞳が忘れられなかった。

 9月の街中をさ迷い歩く、僕の足を止めたのは、一人の女性の姿だった。遠くから見てもその女性が特別だと分かった。彼女の美しさは、暗闇に灯されたランプの明かりのように人の心を打った。男たちは一人残らず立ち止まって彼女を眺めた。彼女はすべてを兼ね備えた女性だった。ありとあらゆる魅力をすべて。そして僕もまた彼女の姿を追った。

 彼女は通りに面した古いホテルに姿を消した。僕は引き寄せられるように彼女を追って、ホテルのロビーに足を踏み入れた。彼女はフロントに立って話をしていた。僕は彼女に気付かれぬようにロビーのソファに腰を下ろした。そこに座って彼女を眺めていた。彼女はまるで夢の世界の住人のように淡い光の中にいた。僕はまるで魔法にかかったようだった。

 ぼんやりと彼女を眺めていると、彼女はフロントから離れて僕の方に歩いてきた。それから僕の前で立ち止まり、僕の隣のソファに腰を下ろした。僕は心臓が高鳴り、顔が赤く火照るのを感じていた。声をかけたのは彼女の方からだった。
「どんな味だったと思う?」そう彼女は僕にささやいた。
「え?」僕は驚いて聞き返した。
「マンモスよ」彼女は笑って続けた。

 僕は慌てた。慌てて袴田君の名を呼ぼうとした。
だが、彼女はそれを制するように、こう言った。
「一度、始まってしまった物語には終わりなんてないのよ。誰かがそれを捨て去っても、他の誰かが拾い上げて自分なりの物語を語り始める。物語は決して終わらない。決して滅びることなどないもの」

 彼女はそれだけ言うとエレベーターに乗り込んだ。僕は彼女の後を追うことも、腰を上げることも出来なかった。

 僕はホテルのロビーに座ったまま、新しい何かが始まる瞬間を感じていた。袴田君から受け取った、新しい物語の存在を感じていたのだ。
 僕はそこに座って新しい物語の新しい頁を、今、開こうとしていた。

posted by sand at 13:59| Comment(2) | 超短編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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